う (1/3)
数えると大体五十路ほどになるが、なるほど確かにこの位になると社会の荒波に疲れもする。精神的に。しかしまあ、上司も部下も色濃い奴らばかりだから、折角取れた有休位はどこか温泉にでも一人でのんびり浸かりに行こうか……だなんて考え甘かった。

この世界の文明開化も程ほどにしたほうが良いんじゃないかと常々思っている。本来この年代にこんな立派な新幹線は無いだろうし、江戸から某温泉地まで一時間ちょっとで行けるなんてありえないだろう。まあ兎も角、俺が何を言いたいのかというと、

「何でお前らの所為の疲れを癒す為にここまで来たのにお前ら付いて来んの? いやもう本当に迷惑なんですけど」
「そんなこと言わんでくれようトシー。俺達だって温泉入りたいさ」
「そうですぜィ土方さん。一人で温泉満喫しようったってそうは行かないんだからなァ」
「いや幹部全員来たら江戸の治安どうすんだよ」

それはほら、と支給のガラケーの画面を見せてくる近藤さん。そこには『いってらっしゃい』と墨で書かれた半紙を手に持った狸、もとい伊東さんが居て。その壮絶なる苦労を思うとかなり同情してしまった。

「本当にすみません副長……必死に止めたんですけど」
「…もういい」

諦めも時には肝心だ。