唐突だが、私は白石君のことが好きだ。

しかしながらこれは叶わぬ恋である。白石君が、どれだけ美人に告白されても断り続けるのは有名だし、そのあとにきちんと「ありがとう」と一言添えるのも、そのときに寂しそうに小さく笑うのも、白石君を好きな女子の界隈では有名なことだからだ。バレンタインでは、靴箱や机の中など、間接的な所においておかないと彼は丁寧に、しかし遠まわしに“ごめんなさい、貴女のことは好きではありません”というイントネーションで断られてしまうので、皆は名前も書かずに(書くと振られるから)そっと彼の領有地に忍ばせる。

かくいう私はスタンダートにぎゅうぎゅうの靴箱にこれまたぎゅうぎゅうに詰めた。食べてくれたのかは分らないけれど、きっと気持ちは受け取ってくれた、と信じている。

話が逸れた。これは、私が彼を好きになった日のことだ。

私はその日、学校からの帰り道に今日予習するはずのノートを忘れてしまい、急いで学校に戻った。日もとっくに沈んでいたので、もう誰もいないだろうと高をくくって私は校舎に侵入した。別に不法侵入ではありません。

無事に私はノートを持って、家に帰ろうとした。しかし、私はテニスコートの照明が点いている事が気になって、テニスコートを訪れました。予想通りコート内の照明は一部だけ点いていて、コート一面にテニスボールが落ちていた。私は一瞬、片付けなかったのかなと疑問に思ったのだけれど、その対面にいた人物を見て納得した。白石君だ。

白石君は何度も何度もサーブを打った。同じ場所にボールは跳ねるものの、彼は諦めずに、というよりかはむしろ納得していない様子でラケットを永遠と振っていた。

私は理解した。彼は人よりも“すこしだけ”要領が良いとか散々言われているけれどそれは間違いで、出来ないけれどそれを大層努力して補っているのだ。

そのとき私は、初めて彼のことを格好良いと思った。今も思っている。

そして、とどのつまり私は彼を好きになったその瞬間から、彼に振られているのだ。



融通のきかないのが恋



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白石くんの中の人は当然女の子なので女の子は愛せないよというお話。でも女の子の気持ちはとてもよく分っているので皆惚れちゃうよって話。しかしながらも皆振られちゃうから告白はしないよって話です。

title=不眠症のラベンダー-シアンに君を溶かすより

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