オサムちゃんにバス代をケチられたお陰で、俺達は帰り道は電車という肩身の狭い思い(なんせ大所帯で、尚且つ汗臭い)をしなければならなかった。応援しに来てくれた金ちゃんも、今は疲れたのか座席で寝ている。

かくいう俺も流石に今日一日で色々ありすぎて、目を閉じればうっかり寝てしまいそうだった。ダブルスで危うく負けそうになったり、神様が降臨したり――そういえば何故橘さんに神様が憑いたのだろうか。確かにお釈迦様みたいな容姿だが、そんな安易な。



「色々あったけど、まあ勝てて良かったなあ」



謙也くんはいつも通りの調子でそう笑った。確かにそうなんだけれども、何かを忘れているような気がする。しかしそれが何かは思い出すことが出来ず、ただ首を傾げるのみだ。



「……あ、せや。千歳の目大丈夫やろか。治るとええけどなぁ」

「あー、それは知らんけど、あの状態であれだけ戦えるんな、ら」



あ。

明らかに様子のおかしい俺に、謙也くんはどうかしたん、と声をかけてくれたが、俺はそれどころではなかった。前述したように、完全に千歳のことは頭からすっぽ抜けていた。しばらく頭を抱えてジタバタしていたものの、今からではどうしようもない。



「もうええわ……」



まあ、どうにかなるだろう。過ぎたことはしょうがないよね!

……なーんて思ってた時期が私にもありました。
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