いつもの自分を取り戻した謙也くんは、毛利からなんと1ゲーム取り返した。だがそんな健闘虚しく(というより、謙也くんの健闘で毛利に火が点いたのだが)3ゲーム連取されて6−1に終わった。

……次は無い。これで今年の夏は終わってしまった。先輩たちよりも俺が先に泣きそうになったのを唇を噛んで堪えると、謙也くんはコートの上でこちらを拝んで謝りながらもすっきりした表情をしていた。それについてはよかったと思う。心残りはあるかもしれないけど、彼は全力でやりきったんだ。

審判に整列を促され、また幸村の目の前に立った。幸村は正に高嶺の花って感じだ。



「ありがとう」



ところがそんな彼と握手するとき(関係ないが、俺はいつも相手の利き手に合わせて手を出している)、幸村は俺の右手に紙を忍ばせた。俺がそれを握ると、幸村はにっこりと笑ってうんうんと頷くので俺に渡したかったのだろう。

そしてこれが本題なのだが、気になって片付けのときに開くと、それは幸村の携帯のメールアドレスと電話番号だったのである。
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