1周年リク
君とアイスクリーム頭痛
「ふわふわです!」
「ガリガリだって言ってるじゃないですか!」
「ふわふわ!」
「ガリガリ!」
「ねー、二人とも。わたしどっちでもいいんだけどー。」
「「よくないです!!」」
「ハモんないでよ」

暑い。ほんとに暑い。背中どころか顔だってどこだって汗が噴き出してるのがわかる。駅前の街頭ビジョンの画面では、夏が終わりに近づいています。だなんて天気予報のお姉さんが涼しげなスタジオから宣言しているけれど、この暑さの中じゃそんなこと信じられないよ。

「とりあえず駅前から移動しようよー。日蔭って言ったって暑いよここ。」
「「まだ!!」」

互いにスマホの画面を見せつけている夏目さんと伊代ちゃんは引いた方が負け、と言うように炎天下のなか汗を流しながら睨み合っている。わたしは日蔭に避難したけど、二人は直射日光の下なのに。おーい日焼けしちゃうぞー。ガヤを入れてみるけれど、さっきからすっぱりきっぱり否定されてる。

「あさ子先輩は流行りに疎くないって思ってたのに!シズク先輩とばかりつるむから流行りに乗れなくなってるんですよ!」
「なっ…!そんなことはありませんよっ!確かにミッティは流行りとは別次元のニンゲンですけど、わたしはちゃんとチェックした上であえてこの選択をしてるんですからー!」
「水谷さん…相変わらず散々な言われよう…」

少しも引く様子のない二人に溜息しかでない。本でも持ってくればよかったなあ。それにしたって暑い。

「だから、今のかき氷はふわふわの時代ですよ!」
「かき氷と言ったらガリガリでザクザクな氷こそ古き良きかき氷なんですっ!ふわふわなんて邪道!あんなの口で溶けてすぐに水になっちゃうんですから!」
「そこがいいのに!あさ子先輩の分からず屋!」

どっちにしてもすぐ溶けてしまうでしょうに。白熱してる二人のかき氷合戦は口を出せば出すほどヒートアップする。わたしはどっちかというとどっちでもいい。この際、涼しくなれたら万々歳です。

「大体ふわふわのかき氷ってどこも高いんですよっ!それに比べて昔懐かしのかき氷は高校生の財布にも優しくリーズナブルです!」
「良いものや新しいものを取り入れてるんですからそれなりに値を張ってもおかしくないでしょう!」
「ぐぬぬぬ、これだから金持ちはっ!」

暑くっていやだな〜。どうにかこの暑さから逃れる方法はないものか。時間を確認するためバッグからスマホを取り出すと、メッセージがいくつか届いていた。

「……フローズンヨーグルト……。」
「えっ、何ですか吉川さん、第三勢力ですか?!」
「いや、三バカくんがさ。優待券貰ったからフローズンヨーグルト食べ行こって。」
「ゆ、優待券?!」
「ダメですお姉さま!あの下衆どもの誘いに一回でものったらまたしつこく誘ってきますよ!」
「あああ危ないですよ吉川さん」

行かないで行かないでと二人にせがまれて、両腕をそれぞれがっちり掴まれた。いや、あの。行くなんて一言も言ってないんだけど、伊代ちゃんに至ってはわたしのスマホを抜き取って勝手に三バカくんへ何か返信している。

「そもそも今日は伊代と二人でお出かけする予定だったのに!」
「ちがいますよ!夏目と一緒にデートする予定だったんですってば!」

さっきまでのかき氷戦争はどこへやら。今度はどっちがわたしと出かけるかの論争になってしまった。

「あのさあ、どのみち三人で集まってるんだから三人で遊ぼうよー」
「でも、かき氷……!」
「負けたくない……!」

ああもうただの負けず嫌いが発動してるだけじゃん。これかき氷とか既に関係ないやつじゃないの。また言い合いを始めた伊代ちゃんの手からスマホを取り返してみると、「おい伊代だろふざけんな」だの「オイこら吉川ちゃんよこせ」だの随分と荒れてる。伊代ちゃんが送ったメッセージまで遡ると、「勝手に行ってな下衆ども」と一言投下してあった。ああ、もうめんどくさい。通知切っとこ。


「ねえねえ、二人とも。ここで言い合いしてるならわたし帰っちゃうよ。」
「三バカくんの所に行っちゃうんですかぁっ!」
「や、行かないけど。」
「いやですお姉さま、せっかくここまで来たのに!」
「それさっきからわたし言ってるよ〜。」

埒が開かないな。ほんとに暑い、しぬ、溶ける。この暑さの中じゃ、二人に優しくする気も何もおきない。ほんと帰ってもいいかな、かき氷なんてそこら辺のコンビニで適当に買って帰ればいいや。

「あ。」

街頭ビジョンに映るのは小さなカップを嬉しそうに眺める女優。ビニールの蓋を大袈裟なくらいゆっくりぺりぺり剥がしている。どこからどうみても冷たいそれを見て、もう我慢なんかできない。

「二人とも、もう行くよ。」
「えっどこに行くんですか吉川さん」
「お姉さま!ふわふわ!ふわふわですよ!」

後ろでごちゃごちゃ言ってるけど気にしない。夏目さんと伊代ちゃんの手をひいて、駅の端っこに入ってるコンビニに入って行く。アイスケースのところへ真っ直ぐ向かう。

「えええコンビニですかお姉さまあああ」
「文句いわない、ほらこれ新作だよ。期間限定の。」
「新作?!期間限定?!」
「さっきCMしてた。これにする?」
「します!伊代それにします!」
「吉川さんっ……それはバーゲンダッスじゃないですか……そんな高価なモノ……!」
「昔懐かしのかき氷だって流石にこれより高いでしょ〜。」
「そう言われるとそうなんですけど!」
「で、いるの?いらないの?」
「いります!」

アイスを三つ掴んでレジに持って行く。すると、二人が急に慌てだした。ちょっと肩を止めないで夏目さんアイス溶けるし、さすがに手がつめたい!

「おおお金…!」
「いらない」
「伊代が出します〜!」
「いいから」
「「なんでそんなに怒ってるんですか〜!!」」

結局なんだかんだと二人を強行突破してアイスを購入。駅の駐輪場近くの日陰で三人で並んでアイスを食べた。アイスを手にした二人は喧嘩することなく、美味しいアイスを喜んで食べてくれたからそれでよし。わたしも涼しくなれてそれでよし。後は適当にカラオケでも行って遊んでおこう。

それからしばらくしたある日、ササヤンくんから「吉川さんてかき氷の話題出すとキレるってほんとー?」と意味不明なことを言われた。なにそれキレるわけないよ。「かき氷相手にキレるわけないじゃんー」と返しておけば「だよねー」と笑われた。そういえば、結局あの二人のかき氷戦争は決着が着いたのかなあ。

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