06 「うーん…」 朝の会議室。わたしだけがいるこの空間で、黒板を前にしてわたしはひたすら唸っていた。左手にはメモ書きがたくさんしてあるノートに、黒板の前にある教卓には古典の教科書を開いて置いてある。朝練をしている運動部の声が遠くから聞こえる。それをBGMに、カツカツと黒板にチョークで文字を書き足していく。 「あっれー、吉川ちゃん早いね」 「おはよ及川」 「おはよ。何それ授業の練習?」 「そう。この前の授業の板書が上手くいかなくてちょっと練習しとこうかと」 「へー」 黒板に文字を書くのなんてそうそう無いのに、1コマの授業で嫌と言うほど書く羽目になって頭が痛い。丁寧に書こうとしたら遅くなっちゃうし、適当に書いたら読みにくい。黒板はやっぱり不便だなあ。なんて思っていたら、及川がノートとシャーペンを持って黒板に一番近い列の長机にやってきて座った。 「……なに。」 「オレ、生徒ね!」 「……」 どこにそんながっちりした体格でスーツを着込んだ高校生がいるんだ及川。突っ込みどころが満載だったけど、ニコニコ笑いながら生徒役をしている及川は本当にノートに黒板の文字を写してる。何してんだろこの人。とりあえず、中断していた板書の続きを始めると「ハイッ!」と大きな声が掛けられた。 「はい?」 「吉川先生はスカート折ってますか!」 「は?え?なに、セクハラ?」 「なに、じゃないよ!スカート短すぎでしょソレ!何なの折ってんの?!」 「スーツのスカート折る人なんか見たことないよ」 「だってヤバイでしょそれ!黒板の下の方書いてる時の吉川ちゃんのカッコやばいよ!」 「"やばい"を多用すると何が何だか伝わりませんよ及川くーん」 「いやほんとにスカートやめよう吉川ちゃん。パンツスーツにしようよそれがいいって」 「誰も見ないよそんなの」 「見てるやつは見てるって!」 「それが及川か」 「じゃなくて!男子生徒がだよ」 「えー?まあ、気を付けるけどさあ…」 「ほんとに気を付けて!ていうか、下の方書くとき横着すんのダメだからね、ちゃんと腰から落とせばそんなやばいことなんないんだから」 「はいはーい。(やばいことってどんなだ)」 板書の練習してたはずなのにいつのまにか及川による生活指導が入ってしまって気分は一気にどん底だよこの野郎。高校の頃にスカートの丈を指導されたことを思い出して溜息が出た。そんな短いかなあ。普通のスーツなんだけどな。 「及川は板書の練習とかいらないの?」 「教科書写すだけだしね。面倒になったら生徒にふれば誰かはやってくれるし〜」 「ハイハイそーですか聞いた私が馬鹿でしたよ」 |