05 「お、終わったぁぁぁ〜…」 会議室の長机になだれこむように伏せた。もう疲れた。初日で授業らしいことなんて何にもしてない。自己紹介ばっかりの一日だった。こんなに自分のことを誰かに伝えまくったのなんて人生初めてだよ。 「オツカレ〜」 「ひゃっ、つめたい」 「はい、差し入れ〜」 「救世主…!」 「やだなあ吉川ちゃん、そんな熱っぽく見上げないでよ照れちゃうなあ」 「……」 「冷めた目で睨まれたら及川さん泣いちゃう!」 冷たい缶を首筋に当てられて、驚いて顔を上げると、缶コーヒーとミルクティーを手にした及川が立っていた。気が利く奴だなあ、なんて思ったことはしまっておこう。絶対に調子に乗る。そうでなくても、いつもふわふわちゃらちゃらしてるんだ。 「及川、部活もみるんでしょ」 「まあね。でも必須じゃないよ。実習の記録とかレポート書くのが優先かな」 「なんだ〜、てっきり放課後もみっちり学校にいるんだと思った」 「流石にムリムリ!週末は普通に大学の部活行くしね」 「そっか、今もバレーしてるもんね。一回試合見に行ったことあるよ〜」 「うそ!」 「ほーんと。うちの大学と交流試合したでしょ?あれ見たの。」 「うちが勝ったやつだ!」 「そうそう」 「来るなら連絡してくれたらよかったのに」 「連絡先知ったの今朝だよ」 「それもそっか」 及川はへらへら笑ってる。缶コーヒーはかっこつけて買ったのか、微糖と無糖を間違えたのか「ニガイ!」と文句を言ってはいるけど、それでもやっぱりへらへら笑ってる。何が、そんなに楽しいのかなあ。貰ったミルクティーを開けて、一口飲む。とっても甘い。 「吉川ちゃんは歩きで来たの?」 「んーん。車できたよ」 「送り?」 「自分で運転してきた」 「車持ってんの?!」 「従姉妹のお古を去年もらってさ〜。アパートから遠いし車で来たの。及川は歩き?」 「歩きだよ。車いいな〜、オレも欲しいけどなかなかね…」 「卒業してからでも十分じゃない?そうだ、コレのお礼に及川を車で送ってあげましょう」 「エッ、オレが助手席乗るの?!オレ運転するよ!」 「だって、軽自動車だもん。及川くらいの身長だと辛くない?」 「軽でも車体によるよ」 「でも花巻が運転したとき大変そうだったもん」 「はあ?マッキーが吉川ちゃんの車運転してんの?」 「貸せって言われてね。結局、絵面がヤバイから貸さなかったけど」 「そりゃあ180オーバーの男が軽に乗ってるのって結構すごいよね」 「しかも、わたしのハンドルカバーがキーテイちゃん模様なの。狭い空間で、キーテイちゃんを握りしめる奴の姿はなかなかだったよ」 「もう吉川ちゃんとマッキーなんなの仲良すぎ!」 「親友だからね。」 「オレもいーれーて!」 「えー、どうしよっかなあ」 オレが運転する!と及川は意気込んだけど、青城から近いのはどう考えても及川の家だったから、ぶーぶー言う及川を無理やり助手席に押し込んでわたしが運転することにした。助手席の椅子を一番後ろまで下げたけどとても窮屈そうだった。しかもがっちりしてるから圧迫感がとてつもなかった。最初は文句ばっかりだったけど、最後の方は車内に色々と飾っているキーテイちゃんを長い手で物色しては報告してくるのがとってもうざかった。 「あっ隠れキーテイちゃん見っけ」 「隠してない!」 |