及川

02
アパートに外付けされた階段をカンカンと鳴らして急いで登る。突き当りにある自分の借りている部屋に駆け込むと、堅苦しいスーツを脱ぎ捨てた。……。危ない、スーツに皺が付いちゃう。ぽいぽい投げ捨てたジャケットとスカートを拾い上げてハンガーに掛けてクローゼットにしまった。シャツは予備があるから、シャツにストッキングという気持ち悪い恰好のままベッドにダイブする。スマホで電話のアプリを起動して、目当ての相手の名前を選択した。

『…もしもーし』
「はなまきはなまきはなまきはなまきいいい」
『あっ、間違い電話デシター』
「こっちから掛けてんだから間違ってない!」
『何だよ急に。こっちは課題で忙しーんだけど』
「それは君が1年の頃に手を抜いてたからでしょ」
『……うるせ』
「そんなことより!」
『あ?』
「わたしの教育実習生活に死刑宣告が下された件について感想をどうぞ」
『なんだよ、担当が荒木じゃなくなったってコト?』
「残念ブブー。設問に沿った答えをしなくちゃテストの点は貰えないのよ花巻くんや」
『バイバーイ』
「きらないでー!」
『ほんと何なのお前。死刑宣告の詳細を10字で述べよ』
「及川徹が実習仲間」
『足んねーよ下手くそか』
「だーもう、どうしようわたし女子生徒とはいい関係でいたいのに睨み殺される」
『及川って中学の方かと思ってたけど高校の方だったのな』
「花巻知ってたの?」
『この前、青城のグループトークに「みんな及川先生って呼んでネ☆」って来たから既読無視しといた』
「わたしも無視していーかな」
『いじけてもだるいから適度にやっとけ』

『まー、今度にでも飲みいこうぜ色々と話聞いてやるよ』
「やったあ花巻のおごりだ」
『おごんねーよ』
「じゃあ、テスト対策してあげないけど」
『…少しだけだぞ』
「わーい!」


花巻とは高校の3年間クラスがもろに被り、席もほどほどに近かったため授業でグループを組むときは大抵一緒だった。それもあってかかなり気があう。大親友だ。学科は違うけど、大学まで被った時には大爆笑だった。なんでお前がいるんだと受験会場で言い合ったのが懐かしい。かれこれ七年目になる付き合いは今のところ途切れる様子はない。互いに恋人がいても、ちょくちょく遊んでたこともある。まあ、二人っきりになると浮気だなんだとの面倒なことになるから大学の友達とわいわいやる程度だったけど。


『及川も悪い奴じゃねーから、変に構えたりすんなよ』
「そうだね。あんまり知らないけど」
『どっちかっつーとお前のが変で悪い奴だな』
「悪いってどこがですかね花巻さん?」
『性格』
「うるっさいな、まじで試験勉強教えてあげないよ!」
『ほら、そういうとこ!』


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