11 「「「「かんぱーい!!」」」」 何とか揚げ終わったフライたちが乗ったテーブルをガタイの良い男三人と囲んでいるこの図はなかなかにシュールな気がする。あれ、これってわたし小さくて細く見える?すっごいいいじゃんそれ!とか思ったけど、誰が見てるわけでもなし、悲しくなった。 「で、お二人さん教育実習はどうよ?」 「まあ、大変だよね〜。」 「楽しそうにやってるじゃん。いっつも女の子侍らせてるよ。」 「んなこったろーと思ったよクソ及川。」 「オレ悪くなくない?!向こうからくるんだし!」 「モテる男は違うねえ〜〜。」 「ね!この人ホストまがいなことしたりさ〜やること言うこと違うよねえ。」 「は?ホスト?何かされたのか吉川。」 「何もしてないよ!誤解うむ言い方やめようか、吉川ちゃん…!」 「名刺の裏にメアドとか乗っけて、『これは吉川ちゃんだけにだよ!』って。」 「待って脚色されてるよ、オレそんなウインクとかしてないし!」 「あれ、名刺がウインクしてる画像だっけな…あれどっかに行っちゃったからわかんないや。」 「ひど!せっかくあげたのに!」 「どのみち及川がキモチワルイことは十分にわかった。」 「今更デショ〜。」 「誰も助けてくれないっ!」 そういえばお腹が空いていた。ってことで、暑いなかで暑いものを食べてたらお酒が進む進む。花巻と及川が買っていたお酒の入った袋は結構な量があったけど、残りも少なくなってきた。 「も〜、なんで吉川ちゃん酔っぱらってないの〜!」 「うっわ。及川なんなの絡み酒?手じゃまなんだけど!」 「なんでそんなに素面なの!」 「お腹いっぱいになると飲めないだけですー。酔ってないわけじゃないでーす。」 「おいセクハラ川やめろ。」 「セクハラ川さんてば吉川のスカートの長さチェックしてんでしょ、コワーい!」 「だってさ!あれやばいんだって!」 なにがやばいんだかわからない及川のやばいトークが始まった。急に立ち上がった及川は、わたしが黒板の下の方を書くときの真似をしているらしく、すっごい変な姿勢で止まっていた。 「こう!これやばくない!」 「ぶわっはっは!なにソレ!お前あんな姿勢で書いてんの?!」 「大げさ!わたしそんなんじゃないし!って、ちょっと、顔背けないでよ岩泉くん!」 げらげら笑っている花巻に、この姿勢であのスカートはよろしくない!とぷんすか怒ってる及川とお前まじでそんなことしてんのか…っていう岩泉くんの冷ややかな目。なんなんだこの状況。逃げるが勝ちだ!ってことでトイレに避難することにしよう。スマホを掴んでトイレへと退散することにした。トイレの前でスマホをいじって、溜まってたメールに適当に返事を返した。やっぱり少し酔ってる。どこかふわふわしてるし、何より暑い。しばらくして部屋に戻ると、にやにや笑う花巻とまだぷんぷん怒っている及川と呆れ顔の岩泉くんが何やら話し込んでいた。 「今度は何…?」 「吉川さ、仲良しの男子生徒いるんだってー?」 「はあ?誰のこと?」 「吉川ちゃんいろんなことマッキーに話すくせしてなんでそういうこと話してないの?!」 「いやだから何のはなし」 「まどろっこしーんだよテメー、さっさと言いやがれ。」 「叩かないでよ岩ちゃん!」 仲のいい男子生徒…?そう言われてピンとくる相手がいない。強いていうなら、なっちゃん弟くらいだけど。まさか、ねえ。 「それって、まさかだけどさ。高橋くんのこと?」 「ほら!やっぱり!」 「えっまじで。まじで言ってんの吉川。」 「高橋ってセッターのやつだろ。」 ドンピシャ。なぜだ。ていうか知ってるのか…。指導とか行ってんのかな。 「あのさあ、何か勘違いしてない?」 「だって名前呼ぶくらい仲良しだった!」 「名前?」 「紗希乃ちゃんって呼ばれてるじゃん!」 「小っちゃい頃の名残でしょ。その周りの子はただの悪ふざけだし。あんなので仲良し認定されるんなら及川タイヘンなことになっちゃうよ。」 「小っちゃい頃?」 「そ。わたしの小学校の頃の友達の弟なの。」 「…」 「…」 「…」 「なんで黙る。」 堰がきれたように、またげらげら笑いだす花巻。なんか焦ってる及川。それに蹴りをいれる岩泉。ほんとに何なのこの状況。 「ひぃ、もう、笑いすぎて、ヤバイ…!」 「勘違いして一人空回って残念だなセクハラ川。」 「だーからセクハラしてないって!」 セクハラした、してない、だのよくわからない酔っ払い共の問答を見てたら、さっきまでのふわふわした感覚もどこか静まっていった。夕方から始まったこの飲み会も気付けば日付をまたいだところで、明日の午後から練習があるという三人は寝ないとまずいだろうとお開きにすることにした。とはいえ、終バスはもうないから必然的に二人はここに泊まることになるんだけど。 「吉川はどうするんだ?」 「帰るよ。歩いて帰れなくないし。」 「セクハラ川がいるから泊まれないしねー。」 「人聞き悪いこと言わないでよ!ていうか、マッキーんち泊まってんの?!」 「大学の友達と飲んだ時ね。雑魚寝だけど。」 「及川、吉川んこと送ってやってよ。」 「あー、ウン。送る。」 「え、いらないよ。セクハラ川なんでしょ?」 「だからちがうって!」 布団敷きたいけど男三人も狭い部屋にいたら敷きにくいからソイツ連れ出して。と理由になってるんだかなってないんだかわからないことを花巻に言われて、かなり酒臭い及川と一緒に外へ出た。きっとわたしも酒くさい。 |