30万打リクエスト小説

サマー・パレット@



うだるような暑さに心が折れそうだったけど、降谷さんへ渡す物があるという口実を利用して一人訪れたポアロで休憩中。やっぱり降谷さんのコーヒーおいしいなあ。アイスでも美味しく淹れられるのって何かコツでもあるんだろうか。手際よく動いてる降谷さんを眺めながらそんなことを思っていたら、店のドアが勢いよく開かれた。

「紗希乃さああん!やっと来たー!」
「うわあっ」

すごい勢いでわたしへ詰め寄って来た園子ちゃんに驚いて、椅子からお尻が半分落っこちそうになる。まずい、下に落ちる!……かと思ったけど、降谷さんがカウンターに乗り出して腕をとってくれたおかげで事なきを得た。

「大丈夫かい」
「ええ、なんとか……!」
「きゃー!安室さんかっこいい!さっすがイケメンはやることが違うわね!」
「ちょっと園子、紗希乃さん驚かせて危なかったじゃない!」
「蘭さんの言う通りですよ、園子さん。これが彼女だったから腕を掴めたけど、もしコナンくんだったりしたら手が届かなかったよ」
「ガキンチョ相手にこんながっつかないからそれはナイナイ」

ごめんね、紗希乃さん。と園子ちゃんが謝りつつわたしの手を取る。

「あっちで話しましょうよ!わたしたち紗希乃さんにとっておきの話があるの!」
「すみません紗希乃さん。せっかく安室さんとお茶してたのに……」
「大丈夫だよ蘭ちゃん。安室さん、わたしもテーブル席に移ってもいいですか?」
「もちろん。おかわりを持ってくから、先に行っておいで」
「はーい」

テーブル席についてニコニコと待っている園子ちゃんと蘭ちゃんの向かいの席につくと、「紗希乃さん、耳貸して!」と園子ちゃんが小っちゃく手招いた。テーブル越しに園子ちゃんの方へ耳を寄せると、楽しそうな声で、あのね…と囁いた。

「……海ぃ?」
「そーよ、海!我が鈴木財閥の別荘にぜひ紗希乃さんも招待しようと思って!」
「今週の土日にわたしたちも一緒に園子の別荘にお邪魔するんです。コナンくんや子供たちもいるし、もしよかったら紗希乃さんもどうですか?」
「今週末かー」

海なんて最後に遊びに行ったのいつだっけ。仕事でとある組織の人間の取引を押さえに行ったのが最後な気がする。どちらも休みで行けはするけど…正直めんどうだなあ。すっぱり断りたいのに、その日は仕事だって簡単に断れないのはすぐそこにいるあの人のせい。

「その日は仕事がないってわたしたちもう知ってるよ!お休みなら行きましょ!」
「えっ?」
「あれ、お休みじゃないんですか?安室さんにどっちも休みだって聞いてたんですけど…」
「お休みで合ってるけどさあ…」

どうかしました?なんてしらばっくれた顔をぶら提げて、降谷さんがドリンクを運んできた。

「なんでもう教えちゃってるんですか!」
「君が休みをちゃんととっていないって小耳に挟んだからね。無理やり連れてかないとどうせ仕事に行くだろう?」
「そりゃあ、仕事が立て込めばそれは仕方ないことで…」
「ここでお茶してる余裕ができるくらい仕事が落ち着いたようでよかったよ」
「……まさか」

はめられた。降谷さんに渡すように頼まれていた封筒の中身を今すぐ開いてやりたい!きっと中身なんて急ぎじゃないどうでも良い物で、わたしをポアロへ呼び出す口実に用意させたものなんだろう。降谷さんのようやく気付いたのか?と少し馬鹿にするような視線と、わたしからの良い返事を待ってる女子高生ふたりのキラキラした笑顔がとっても居心地悪い。

「はあ、わかった、行くよ。行きますけど!でもわたし水着持ってない」
「それは僕が何とかするから心配いらないよ」
「は、え?まさかとは思いますけど安室さんが用意される感じですか?」
「何か問題でも?」
「問題しか感じないんですが!だって貴方わたしのサイズ知らな……いや、知ってる?知ってます?そういえばこの前のテニスウェアもピッタリだったっけ…?」

なんで知ってるのか尋ねてみても笑顔でかわされるだけ。園子ちゃんが「愛の力よーー!」と大興奮してるけど、愛の力だろうが何だろうが人のスリーサイズ見極められるのって結構おかしいと思うのはわたしだけなの?!ほんと何で知ってるんですか降谷さん!問い詰めてやろうと彼のエプロンの裾を引いた時、奥の席から注文をお願いする声が届いて降谷さんが明るい声でそれに応じて逃げていく。ひらりと体を翻してから、すこしだけわたしの方へ振り向いた。

「秘密だよ」

小さく耳打ちされた言葉に反論する暇もなく、楽し気に客の元へ向かう背中を見送ることしかできなかった。

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