30万打リクエスト小説

サマー・パレットA



一体どんな水着が用意されているのかと震えつつ降谷さんから受け取ったショップバッグはわたしのよく知るお店のものだった。スーツはもちろん、潜入する際のドレスなんかもこのお店で買ってる。降谷さんお店知ってたのね、勝手にスリーサイズの予想ができる変態上司だと思い込んでてごめんなさい!

「蘭さんたちの前だから追及するのはやめておくけど、誤解が晴れたようでなによりだよ」
「あのほんと!すみませんでしたーっ!」

じっとり見下ろしてくる降谷さんから逃げるように女子更衣室に飛び込んだ。先に入っていた歩美ちゃんや蘭ちゃんたちに苦笑いされているけど気にしないでおく。そう気にしたら負けだぞわたし…!早速着替えているみんなの横でいそいそと着替える。降谷さんが用意してくれたのはビキニタイプの水着で胸元にふんわりとフリルがついていた。ああそうね、ボリューム的に底上げは限界がありますもんね……。

「紗希乃お姉さんとってもキレイ〜!」
「紗希乃さん似合ってるじゃない!」
「さすが安室さんですね!紗希乃さんに似合う色よくわかってる〜!」

面と向かってそう言われると同性とはいえやや恥ずかしいものがある。みんなも似合ってるよ。羨ましいところもあるのは秘密にしとくね!哀ちゃんが来れなかったのは残念だなあ。きっと可愛い水着似合うだろうに。一緒に行こうよって電話して返って来た返事は彼女らしい一言だったな。

「いやよ。絶対に事件に巻き込まれるもの」

そうならないかもしれないじゃないって軽く笑って流した昨日のわたしは浅はかだったらしい。女子更衣室を出てみたら目の前に人だかりができていて、その輪の中心にいたのは倒れている男性と連れらしい男女3名。そしてその現場を見回っている見慣れた少年たち。一度とは言わず定期的にお祓いへ行くことをメガネの彼には是非ともお勧めしたい。

「ええー?!事件〜?!」
「そうなんです!今、安室さんが海の家の人を呼びに行ってます!」
「急にそこの兄ちゃんがバターって倒れてよ!暑さのせいかと思ったんだけどなんか寝てるみてーだし…」
「警察には通報したの?コナンくん」
「うん。蘭姉ちゃんたちが出てくる前に通報したよ。……なに、紗希乃姉ちゃん」
「腕利きのお祓いでも探してこようか?」
「職種的に非現実的なもの一番信じちゃいけないだろアンタ」

冗談はさておき。倒れている男性は見たところ息はしているし、外傷は特になさそう。殺人じゃないだけましか。と男性の脇に落ちているペットボトルの脇にしゃがんで覗きこむ。睡眠薬でも入れられたのかな。3人の連れは皆気まずそうに立ち尽くしたままだった。そんな時、通してください!と聞きなれた声が聞こえてくる。海の家の人と共に現れた降谷さんに、遅かったですねと声をかければ、ポカンと間抜けな顔で足を止めた。

「やだー安室さんったら照れてるんじゃないのぉ?」
「あっはは、今それどころじゃないはずですけどー」
「悪い。すこし驚いたんだよ」

先に行って遊んでおいで。と降谷さんの車のキーを手渡される。あー、そうだ。パラソルとか車に積んだままだったっけ。蘭ちゃんたちと運ぶか。ここにいても何もできないし、殺人事件じゃないとなったらちびっ子たちが海へ遊びにいきたくてソワソワしはじめてる。…殺人じゃなくてがっかりするってかなり物騒な子たちだなあ。

「パラソルたてたらどの辺にいるか連絡しますね」
「頼むよ。……ああ、それと、」

ばさり。肩にかけられたのは降谷さんが着ていた半袖のパーカーだった。もっていて、と耳元で囁かれたら頷くしかできない。きゃあきゃあ叫ぶ女子高生ふたりと大人に憧れて顔を輝かせる小学生3人を無理やり輪の中から引きずり出した。本来ならわたしは照れに照れまくってたはずに違いない。けれども隣りに人がぶっ倒れている今そんなの無理だった。ああーこれはもったいないことをしたのかしら。



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