30万打リクエスト小説

未来の色をそこで見た<前>



見知らぬ女の子が警備企画課の端で付属品のように収まっている。見慣れぬ姿と真新しいデスクに思わず首を傾げた。一体誰だあの子は。女性というにはどうにも幼く見える。まだ何にも染まっていないような、ただの子供にすら見えた。それが一丁前にスーツを身に付け、一時的に支給されたらしいノートパソコンにひたすら視線を送っている。その双眸は何を見ているのか周りに気付けないほど集中していた。

「ちょっと、」
「ああ、お疲れ降谷。定期報告か」
「局長に呼ばれたんだ」
「局長なら執務室にいるぞ」
「そうじゃない。あれは?」
「あれって」

女の子に対してあれはないだろう。と声をかけた同僚は馬鹿にしたような顔で溜息を吐いた。座ったままの同僚にちょいちょいと手招きをされて、かがんで耳を寄せる。

「先月入った新人だよ。最初は村上で今は山中についてる」
「今は、ってことはまだちゃんと班決めてないのか」
「なんせオンナノコだからな。抜いてきたって聞いたけどもうすでに持て余してるんじゃないのか」
「へえ……」
「警視庁の方でも警護課が欲しがってたとか聞いたぞ」

もったいない。そう思った理由は、もっと自由でいられる職があるのにという意味でもあったし、担当の人選が良くないと思ったからでもある。村上に女なんて扱えるのか?山中は悪くないが、新人を充てるには微妙な人選だな。警護課は今年ちょうど空きが出たはずなのに補充に回さないってことは、結局はそこまでの人材だったのか。もしくはうちの局長が熱心に口説いたか…。何にせよ、うちに配属されたのだから女だろうが関係ない。俺がそんなことを思っているとは知らない彼女は、幼い外見とは裏腹に指示を淡々とこなしていく。

「……あ。」

ノートパソコンの画面を覗き込んでいた丸い眼がパチリ。俺の視線とかち合った。途端に、ドタバタと慌てて立ち上がり駆け寄ってきた彼女は目の前で敬礼する。

「お疲れ様です!先月こちらへ配属となりました、吉川紗希乃です!」
「ああ……、俺は、」
「降谷さんですね?潜入捜査お疲れさまです」
「お、おう」

降谷が圧倒されてるぞ、と含み笑いをする上司や同僚をひと睨みしてやれば周囲は静まり返る。やたらと目が輝いて見えて、なぜか面白くなかった。君が思っているほどここはキラキラした場所なんかじゃないぞ、なんて嫌味が言いたくなるくらいその目は輝いていた。今度、潜入の話とか教えてください。なんて社交辞令じみた言葉を残して、彼女は自分のデスクへと戻って行った。


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