蒼の双眸(FGO×DC)

D


「私は君を知っているよ。この前のイギリスでのテロ活動に参加していたね。それも爆心地からほどほどに近いところで爆風にもまれてそれなりの怪我を負った」

キャスターと呼んでくれ、と名乗ったその人は、紅茶をいれながら演説するように声高につらつら話し始めた。少し前の己の状況をそのまま言われてぎょっとした。けれども、ジンから聞いたんだろう。あのテロの指示を出したのも彼だったし、今回の監視の命令をだしたのも奴だ。

「君は怪我をしたはずだったのに」

ティーポットをコトリと置いて、俺の向かいに座った彼女の顔はなんとも場にそぐわない顔だった。なんというのだろうか、その、好奇心を抑えきれないとでもいうように、瞳の奥には熱が籠ってメラメラと燃えているようだった。

「どうしてだろう。あの時の君は確かに血を流して、痛がっていたのに、その傷はどこへ行った?この前なんて数か月前を指すような物言いをしてみたが、実際のところ1週間と経っていないじゃないか。それなのに君は包帯のひとつもしていなければ、怪我がなかったことになっている」
「……アンタが何を言いたいのかわからねえが、俺は入院もして治療をしたんだぞ」
「ああ、そうとも。それは本当にしたんだろう。じゃあ聞くが、一体何日入院した?いつ目が覚めて、いつ退院して、いつ傷が消えた?君はそれらすべてを具体的に思い出せるかい?」

女に聞かれたことを思い浮かべた。何日入院したか?数日はした、けれども具体的な日数はわからない。いつ目が覚めたか?きっと、テロを起こした次の日だ。いつ傷が消えたか?……わからない。というより、そんなこと気にしたことがなかった。

「君は魂すらこの世界の一部なんだろう。こっち側からこの世界に取り込まれた、仮初の人間なんかじゃない。だから、傷は気づけば治っていて、死には至らない。そもそもさ、あんな爆発に巻き込まれておきながら怪我で済んでるのがおかしいだろうにね……」

君が私の元に寄越されたことに感謝しよう!と両手を上げて女は喜んだ。喜びようが異様に見えて、思わず椅子ごと後ずさる。

「私の実験に協力してくれるかい?!」
「内容によっては……!」
「内容?例えばどんなのが嫌?」
「死に近いものは嫌だ」
「安心してよ。君は殺そうとしても死なないよ」

少なくとも、この世界がこのままであり続ける限りはね。

そう言って、女はニンマリと笑うのだった。

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