蒼の双眸(FGO×DC)

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上昇するエレベーター内で自分のスマートフォンに届いたメッセージを読んで一息ついた。立香はちゃんと起きて朝食も食べて学校に行けたらしい。昨日なんだか落ち込んでるみたいだったから実は結構心配していたんだけど、よかった。大きな数字を目指して上がり続けていくボタンの光を眺めていると、次の階で止まるようで甲高いベルの音と共にエレベーターがゆっくりと停止した。

「おや、おはよう紗希乃。こんな朝はやくに来てマスター、いや、立香は大丈夫?」
「エミヤから無事学校に向かったと連絡があったので平気だよ」

都心にある高層ビル。扉の開いたエレベーターに乗り込んできたのは、めずらしい淡い緑色をした髪色のその人。いつもはさらりと流しているそれを今日は無造作に一括りにしていた。普段は隠れているうなじが気になるのか、右手でうなじを触っている。目的の階はきっと同じ最上階。このビルの所有者であり、社長のギルガメッシュのところ。

「エルキドゥ、今日はスーツなのね」
「今日は来客が来るからってギルに服装をちゃんとしろと言われてね」
「へえ。どの社長に?」
「年配のほうだよ」
「なるほど。英雄王さんの方だったら、きっとヒョウ柄とか激しい柄だったでしょうね」

それはそれで似合っていたかもしれない。めずらしい髪色が浮いて見えないのは彼の見た目がとても美しいからだった。複数存在するギルガメッシュたちは現代の服を着ていることが多いけど、エルキドゥはいつも白い大きな洋服を好んで着ていた。もったいないと思うことがよくあったから、これはいい機会なのかもしれないな。

「マンションの管理だけ任せておきたいけどなかなかそうもいかないんだ」
「やることそんなにないから大丈夫だよ。むしろ、何もしていないのに家賃収入があって怖いくらい」
「そういえば家賃の件で質問があるって聞いてるけど、支払いが滞ってるサーヴァントがいるのかい」
「そうじゃないの。多いの」
「多い?」
「部屋数と、契約者の数に見合わない金額が振り込まれていて出所が分からなくって……」
「何部屋分?」
「ひとフロア分くらいあるのよ」
「……誰か地下室でも作ってるかもしれないね」
「地下室ー?!」
「とりあえずその件は後で誰かに調べさせるよ。やりそうなのは限られているから」
「お願いね。ところで今日はその件で呼ばれたんだと思ってたんだけど……?」
「今日はたぶん来客が多いからそれで早くに呼ばれたんだろうね」
「そんなに多いの?」
「うん。警察らしいからね、いっぱいくるんじゃないかな」
「……警察?」
「そうだよ。警察」
「なにかあったの?!」
「なにもないよ。取引先の会社がヘマをして、その余波でうちにも調べが入るってことになってるけどね」
「それは結構やばいやつなのでは……」
「そうでもないと思うな。きっと、彼らが知りたいことはここにないから」
「……今日来るのって、本当に警察?」
「勘がいいね。でも安心して、少なくとも紗希乃や立香に害を与える人たちじゃないよ」
「直接害を与えるものじゃなくっても、迷惑を被ってきたことだって、恐怖を煽られてきたことだってある。立香を狙ってきた悪い奴ら……私はいまだによくわかってないけど、魔術師なんじゃ……」
「魔術師じゃないよ」

チン、と鳴るベルの音。開いた扉の向こうには気怠そうに欠伸をかみ殺すギルガメッシュが立っている。もう過労死なんぞせぬわ!とまるで過労死を経験してきたかのようにいつだった宣言していた彼は、エルキドゥが宙に投げた小さな何かを掴み取ってから歩き出す。それに続くエルキドゥの後ろをついていけば、社長室として使っているギルガメッシュの部屋に辿り着いた。

「魔術師ではない」
「ギルガメッシュたちは見えるんだっけ……」
「千里眼持ってるからね」

便利でしょ?と笑うエルキドゥはギルガメッシュのデスクに積んである取引先からの贈呈品を勝手に漁り始めた。食べれる、食べれない。ブツブツ呟いて箱を仕分け始めたエルキドゥをギルガメッシュは早々に放置している。デスクの傍を陣取られたら座るに座れない。というか、社長用のイスには食べられない贈呈品の箱が積まれてる。仕方ないから応接用のソファを使うことにした。応接用って言ってもかなり豪華絢爛なつくりの派手なソファだったりする。

「ねえ、この食べられるの立香に持っていきなよ」
「貴様も座らんか、エルキドゥ!」
「待たせて悪かったね。あぁ、それと他のももらっていいかな、ギル」
「待ってエルキドゥ、それ対イシュタル用の備えとか言わないでしょうね?」
「勘が良いね」
「投げちゃだめだから!」
「そういえば、ギル。地下室作ってるサーヴァントとか知らない?」
「地下?地下……あぁ、エレシュキガルが何やら騒いでおったな」
「エレシュキガルが?」
「何やら疑似冥界を作るとかなんとか言っておったわ」
「……冥界とは……?」

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