蒼の双眸(FGO×DC)

C


「ナーサリー、機嫌を直して頂戴な」
「ダメったらダメよ、紗希乃おかあさま。マスターは私との約束をすっかりさっぱり忘れちゃったのだもの!」

ふんわりふわふわやさしいケーキ。ほんのりすっぱいイチゴのケーキ。マスターが買って来てくれるって言ったのに、買って来たのはハムサンド。それも騎士王さまのお手つきサンド!

「明日こそ買って来てくれるって言ってたよ」
「だってお茶会は今日だったのよ。招待状もだしたのに、メインのケーキが見当たらない!」

当のマスターは帰って来てすぐみんなに捕まっちゃってもういない。男の子はみんなゲームばかり!みんなこぞって彼を連れてくの。たまにはこっちに寄越してね、そう言ったってあんまり来ない。

「私、ちゃんと順番は守っていたのよ!」
「うんうん。ナーサリーはいつも立香をちゃんと待ってくれてるよね」
「ええそうよ!ずっとずーっと待ってたの。やっと私の番が来てくれたのに、みんなが順番を守らない!」
「……やっと?ナーサリー、あなたいつも立香と一緒じゃない?」
「そうよ、それが当然なんだもの。今回は私がマスターとずっと一緒にいてもいいの」
「……うーん?今回は、ということは前世の話?」

おかあさまが首を傾げながら、ティーポットも傾けた。コポコポと可愛い音を立てて、ティーカップに注がれる魅力的な赤茶色。すこし、話し過ぎちゃったかも。慌てて口を押えて頭を左右に振れば、おかあさまは「深くは聞かないでおくね」と苦笑い。いけないいけない!話しすぎたらいけないの。あれ、でも……話しすぎちゃったらどうなるのかしら。突然あまい香りがやってくる。紅茶の香りとは全然ちがう、ふんわり周りに漂う香り。

「あんまり話し過ぎると今度はケーキどころか紅茶のひとつも淹れてもらえなくなるよ」

あまい香りと一緒に聞こえた声を私は知ってる。やさしくお茶目でちょっぴりずるい声。抜け駆けしちゃった夢の人。真っ白だらけのその人はやさしい声で酷いことを言う。紅茶を淹れてもらえなくなるなんて考えられない!そんなの絶対にイヤ!

あまいお菓子も、おいしい紅茶も一人で飲むんじゃ味気ない。マスターと、そのおかあさまがいてくれたらとってもうれしい。だったら、二人がお茶会に出られるよう、私はちゃんとだんまりするの。ちっちゃな糸口がホロホロほぐれてしまったらハッピーエンドはもうすぐそこね。

はじまりはもうすぐそこよ。ああ、はやく。はやく、はやく!待ちきれない!だんまりしてもいいけれど、おかあさまの物語の続きが読みたくってしょうがない!

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