蒼の双眸(FGO×DC)

B


「随分と恐ろしい顔をしているな」
「……少し考え事をしていただけですよ」
「君は考えを巡らすことが好きなようだが、もう少し自分の姿を案じたらどうだ。折角の良い姿かたちが台無しになる」
「ここには貴方とマシュしかいないのに案じてどうするんです」

セイバーは女好き。立香が言っていた言葉を思い浮かべた。あれは案外間違いじゃなかったらしい。今、ここに女性の存在がないだけで女性がいたらきっとこの男は立香のいうような振る舞いをするんだろう。

女のセイバーとの乖離の後、ひとまず目当ての金の林檎は置いておき、普通の林檎を購入して研究所へと向かった。すると、いつもはベッドで眠っているはずの桃色の彼女がリビングのソファに座っていた。それも携帯保存食のショートブレッドの入った缶を抱きしめて。昏睡状態に近い状態だった起き抜けの子供になんてものを食わせようとしてるんだこの男は!挨拶もそこそこに林檎をすりおろして、冷蔵庫にあったヨーグルトと混ぜてマシュの目の前に置けば、大きく丸い目がきらきらと輝きだした。なかなか食べないマシュからスプーンを受け取って、少しずつ掬って口へ運ぶ。

「あの、あの、ばーぼんさん。わたし、自分でたべられます」
「あぁ、ごめん。本当に考え事をしていただけなんだ。君に怒ったりとか、面倒くさがっているわけじゃない」

それみたことかと、セイバーが肩をすくめていた。そんなことをしているならさっさと報告してきたらどうですか、と座ったままだったセイバーを立ち上がらせる。スマホを片手に出ていくセイバーを見送って、もぐもぐと咀嚼し続けているマシュを見つめた。

「……君に、いくつか質問してもいいかな」
「答えられるはんいでいいなら、がんばります」

やはり、同じだ。二人のセイバーと、この子は同じだ。

「セイバーは、君の本当のお父さんではない」
「はい、そうです」
「それでも、彼は君のことを娘のように思っているようだ。君からもそう感じる?」
「父のように思ってよいと、いわれたことがあります」
「それはいつ?」
「それは……いつ、だったんでしょう…?」
「マシュ?」
「わたしは、いつ言われたんでしょう」

これまでに見たことのある精神が不安定な被検体は拘束具を付けられていた。この子にはそんなものはなく、ただひたすらに眠っているだけだったのもあって誤認していた。精神的に参らないわけがない。実験でどんなことを行われたのかは知らない。幼い体じゃ耐え切れない酷いことをされてきたのだと思う。この子以外の検体が命を落としているのだから、相当厳しい実験をこの子は耐えてきたんだ。記憶の混濁が見受けられる少女は、大きな瞳から大粒の涙を零す。

「あいたい……せんぱいに、あいたい」
「その人は君の大事な人なのかい」

はらはらと、涙の粒を零しながらマシュがゆっくり頷いた。

「もうずっと、会えてません。前はどのくらい前になったんでしょう。せんぱいは、いまいくつになったんでしょう」

起きては眠る。その繰り返しで、覚えていることも曖昧になって混乱しているのか。それでも言葉ははっきりしている。むしろ、年のわりにはっきりしすぎていた。

「そう遠くない未来はいつになったら来るんでしょう」

まるで長い時間を旅しているかのような言葉を呟きながら、桃色の少女は白い肌をひたすらに涙で濡らしていった。

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