蒼の双眸(FGO×DC)

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後悔してほしくないんだ。後悔しないでほしい。それは私の人生の中でたくさん投げかけられてきた言葉たち。私は別に何も考えていないわけじゃない。それでも、周りから見たら物わかりが良いだけの、自分を持たない人間のように見えるらしい。そんなことないのにな。そうぼんやり座っているのはひとつのベンチ。いつも隣りに座ってくれていた人はもういない。

「僕は君が後悔するような人生を送ってほしくないんだ」
「送ってみなくちゃ後悔するかどうかなんてわかんないよ」

ついこの間したばかりの会話が遠い話のように思えてくる。彼はわたしに後悔させる自信に比べて幸せにする自信は足りなかったらしい。そんなもの、足りなくて充分だったってのにさ。それを伝えようにも彼は姿を消してしまった。追いかけたくても連絡先は変えられ彼の家も引き払われていた。

お前なんか大嫌いだと切り捨ててくれたならよかったのに。そうすればこの行き場のない思いも、思い出もちゃんと忘れていけたんだろう。



*


気付けば見知らぬ場所に立っていた。そこから見える景色は、まるで外国のような街並みで、海の香りが漂う浜辺で、コンピューターのモニターが所狭しと並べられていて……。瞬きする度に変わっていく情景に思い至る。ああ、これは夢みたい。

「あなたが悪いわけじゃないんだけど、これからきっと辛い目にたくさん合うよ」

突然聞こえた声を辿って振り向くと、不思議な白い服を纏った少年が後ろに立っていた。面白い所にベルトがある服だなあ。辛い目にたくさん合う、占いのように急に言われてもいまいちピンとこない。それで?と続きを促してみれば、ええと、と言葉を濁される。腕を組んで唸ってみたり、空を仰いでみたり……。ひとしきり悩んでみたかと思えば、パチリと開かれた目に煌めく蒼がわたしをまっすぐ射抜いた。

「原因はそのお腹の子」
「……超能力者とか、神の子とかでも言うつもり?」
「はは。お生憎様そういう訳じゃないんだ。その子自身は、ね」
「よくわからない……」
「だろうね。最後にひとつ教えておくよ。その子はあなたを愛して感謝こそすれど恨んだりなんか絶対しない。だからさ、」

瞬きのたびに変わっていた情景が、わたしの瞬きなんてお構いなしにめまぐるしく変わっていく。私と少年のいる場所だけぽっかり取り残して渦巻いていく景色は、そう、まるで巻き戻しているかのよう。少年はくしゃりと綺麗な蒼を歪ませて、どこか眩しそうに笑っていた。

「あなたが後悔しないようにしてくれたらいい」

この笑い方をわたしは知ってる。たくさん、たくさん見てきたの。
それでも、この子じゃない。私が見てきたのは―――……





カーテンの隙間から差し込む眩しさに、瞬きをくり返す。もう朝か、まだまだ眠いし、何だか変な夢を見て頭が疲れたままだった。ぼやけた視界が落ち着く頃に、ハッとして体を起こす。そうだ、あの男の子。後悔しないように、って私を知ってるみたいに話す不思議な子。そういえば、

「お腹の子って……?」


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