憧憬/降谷零


わたしは必ず証明したい


帰宅ラッシュに紛れ、新幹線のホームで降谷さんと落ち合う。あれから各々事後処理があったせいで同じホテルの同じ部屋に泊まってるはずなのに全然会うことなく数日が経っていた。この数日は府警の人間からの目が厳しい数日間だったなあ。名目上では保護対象だった府議会議員が、あまりにも気力をなくした様子で取り調べに応じていることでわたしが府警の面々にかなり疑われた。わたしじゃないもん。とはいえ降谷さんがやりましたって言うには色々不都合がある。あれは降谷零として、ではなくて組織のバーボンとしてのやりとりだったし。男と仲互いしたんだろう、というところで落ち着いたけれども疑いが晴れたわけじゃないのが少々めんどうかな。

「ライターはよかったのかい」
「お寺に電話したら、どうやらコナンくんたちが持って行ったらしいんですよ」

お墓参りの直後にコナンくんたちが拾った後、わたしと知り合いだから届けると言っていたらしい。だったら最初に電話したときにそう伝えてくれたらよかったのに!内緒にしたいから黙ってて、なんて子供のお願いを聞いてくれちゃったおかげで結局遠回り。だったらパーティ会場で渡してくれてもよかったのにね。

往路と同じ目には合わないぞ。とは思ったものの、「さっさと座れ」とまたしても窓際に押し込められた。

「そういや安室さん、彼を取り逃がしたのわざとですよね」
「何のことかな」
「服部平次ですよ。本当のことを伝えた方がいいって言ってましたし、パーティーに紛れこんだと知って、あっちに追い込みましたね?どうせ、途中で引き返せ、とか言ったんでしょう」
「さあ、どうだろう。特別な指示を出したつもりはないよ。それでも結果的にはよかったみたいで安心したよ」
「すっきりとまではいきませんでしたけどね。でも、いいんです。きっといつかは落ち着くから」
「時間が解決してくれるって?」
「いやあ、ちょっと違うかもしれません。んー……、時間が解決してくれるって当てにしちゃったら、どうしようもなくなった時に心のやり場がなくなっちゃいますよねえ」

折り合いをつける日は必ずいつかやってくる。彼らのお礼を受け取る日もきっとそう遠くはない。だから今は適当な理由を並べて逃げさせてください。やっと向き合っていこうと思えたくらいじゃ、胸を張って乗り越えられたって言えないの。

「必要な死なんて無いと言い切りたいですけど、世の中そうでもないことも知っています。ただ、人ひとりの命が無駄ではなかったと証明するには、まだまだ先が長いですねえ……」

どうしたら証明できると思いますか。降谷さんに訊ねてみたいけれど、やめておこう。わたしは、一方的にあの子に宣言したことを守っていくことだと決めて日々の仕事にうちこむのみだ。

「ああ、長いよ。本当に……」


*

「えーと、ちゃんとご挨拶しないまま出張だったので改めて。先日はたくさんのお見舞いありがとうございました〜」

先輩方のデスクを回りながらお見舞いのお返しをデスクの端に乗せて回る。まとめてどーん、と置くのも考えたけど、流石にちょっとなあと思って一人ずつ用意した。そこそこの出費だけど、普段からあんまり使わないからいいか。と段ボールを抱えて警備企画のフロアを歩き回った。

「おう、よかったな」
「もう怪我すんなよ」
「これやるよー」

段ボールの中身はいつの間にか煙草やらガムやらクッキーに変わってる。おかしいな、お礼のはずなのにまた貰ってるんだけどわたし!

「風見さんもお納めください」
「……ひと箱多くないか?」
「ネクタイ、ダメにしちゃったんで」
「あれはしょうがないだろうが」
「そうなんですけどー。降谷さんと選んだのでぜひぜひ」
「まあくれるなら有難くもらっておく。降谷さんが選んだなら間違いないだろうしな」
「あっ今開けちゃいます?」
「……どういう意味だ?」

えーっと、局長にも渡しに行かないといけないので!と包みを開け始めた風見さんの前から逃げるように離れた。後ろで風見さんがやいやい言ってるのが聞こえるけども知らないぞ。大阪で買おうと思ってたの忘れてたなんて秘密です。東都駅で『東都』とどでかく書いてあるネクタイを選ぼうとしたわたしに東都タワーを勧めてきた降谷さんのセンスを疑ってほしい。

「今だったら東都タワーよりベルツリーだ!ていうか行ってきたの大阪だろうが!」
「ちゃんと明日からつけてくださいねー!」




わたしは必ず証明したい

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