憂き世に愛はあるかしら
憂き世に愛はあるかしら




「姉ちゃんは死んだSPECホルダーを冥界から呼び出せるんだ」

だから僕を現世へ呼び出せたし、僕も呼ばれていけた。未だにこの世界は僕にとって天国か地獄かわからないけれど、少なくとも姉ちゃんから見た冥界であることには違いなかった。ホットミルクのマグを両手で握った紗希乃ちゃんはキョトンとしてる。スペックってわかんのかな。たぶん、わかんないだろうな。

「陽太くんってSPEC持ってたの?」
「……は?」
「全然気が付かなかった!」
「気が付かなかったって、紗希乃ちゃんSPECわかるの?!」
「うん。だって、」

わたしもSPEC持ってるし。にっこりと笑いながら紗希乃ちゃんは自分を指さす。今度は僕がキョトンとする番だった。目の前のこの子がSPECホルダーだったって?一体何の、

「……ねえ、まさかだけど」
「なーに?」
「紗希乃ちゃんがここにいるのって」
「あー、そうそう。SPEC持ってるからって殺されちゃったみたい」
「津田に?」
「つだ……?わたしを殺した人の名前は知らない。ただ、死んだ後にわたしの名前がダルマのお腹に綺麗に書かれていたのは夢で知ってる。あの人が津田って人?」
「きっとそうだと思う」
「ふうん、わたしを殺したの津田さんって言うんだ」

さして興味のない事柄のように紗希乃ちゃんはマグに口付けた。なんで自分を殺したやつなのにそんなに興味なさげにいれるんだ。僕の憤りは顔に出てたみたいで、紗希乃ちゃんはふっと笑った。

「陽太くんは、自分を殺した人を恨んでるの?」
「…恨んじゃないけど悔しい」
「死んでしまって悔しいの?」
「それよりも、手を掛けさせてしまったのが悔しい」
「そっか……。悔しいことっていつまでも残るよね。わたしも残ってる」
「紗希乃ちゃんも?」
「うん。あんなことに手を貸さなければ死ななかったのかな、とか色々」
「死んでしまって悔しい?」
「うん。悔しいよ。自分の浅はかさが招いた結果だからしょうがないんだけども」
「ねー、紗希乃ちゃん色々聞かせてよ」
「わたしの聞くんなら陽太くんのも聞いちゃうよ」
「いーよ。きっと聞かれなくても僕話してるだろうし」
「確かにね!」

ニカっと笑うのは最初に出会った日の紗希乃ちゃんと変わらないけれど、どこか寂しげにも見えた。ほんとに僕は何にも知らないんだな。姉ちゃん、僕ってやっぱり図体ばかり大きくなった子どもだよ。寂しそうにしてる紗希乃ちゃんにどうしてあげたらいいか何にもわからないんだ。





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