お好み焼き奇想曲

ほうかご


「なー、龍!今日の自主練の後ヒマか!」
「暇だけど何かすんのか?」
「メシ食いに行こーぜー」
「お!いいぜ!何食うよ?」
「お好み焼きだ!」
「もう決まってんのかよノヤっさーん」
「へへーん、ほら見ろよ割引券あんだ!」
「ファッ?!何だこれ半額券じゃねえか!なんでこんなモン持ってんだお前!」
「ダチがくれた!前祝いな!」



烏野商店街から少し外れたところにあるお好み焼き屋さん。わたしはそこでバイトをしている。進路が決まった後すぐに始めたおかげで、入学式までの間にいっぱいバイトに入れて短期間で仕事を教えてもらえた。短期集中型のわたしにはありがたい。土日はとても混むけれど、平日はそこまで混まないから店長と一緒にテレビを見ながら雑談をしたりしている。バイトに入る前にノヤからラインが来ていたので、今日はいっぱい食べるのが来ますよー、と店長に伝えると嬉しそうにしていた。店の引き戸がガラガラと開いたので、座っていたカウンター席から降りて接客しにいく。


「いらっしゃませー。何名様で、」
「よっ!来たぜ!」
「え?いや、ウン。それは見ればわかるんだけど、えっとね?」
「部活仲間も連れて来た!」
「あー、うん。誰か連れてくとは言ってたけどさ」

流石に全員連れてくるとか想像もしてなかったわ。ノヤの後ろで申し訳なさそうに苦笑いしているでかい人たちに驚いていると、カウンターの中で店長が大笑いしていた。とりあえず、座敷に案内することにした。にー、しー、ろー、やー…うっげ、10人もいるんだけど!

「龍を誘ったらみんなお好み焼き食べたいって言うんだぜ。そりゃ連れてくるべ!」
「オレらは普通にお金払うんで大丈夫っす」
「そうそう」

三年生らしき人たちたちが口々に謝ってくる。けれど、店長が「いいっていいって!さすがにタダにはできないけど、みんな値引きしてやるからいっぱいお食べ!」という魔法の呪文を唱えたおかげで、でっかい人々の「アザーッス!!」が店内に響き渡った。

「おしぼりでーす」

本当は一人一人に渡さなきゃいけないけれど、10人を一気に相手にするのに細かいことはしてらんないし、ノヤの部活仲間なので丁寧さは割愛させていただく。数本ずつまとめて渡して部員同士で配ってもらった。

「メニューはこちらになります。表はお好み焼き、裏はもんじゃ焼きとなっております。その他の単品メニューとトッピングはこちらになります。お冷はただいまお持ちしますのでお待ちください」
「すっげー、ちゃんと仕事してんだな!」
「ちゃんとやってますよーだ」

お冷の用意をしに一回引っ込む。グラスに氷を入れて、水を注いだ。きっとすぐに無くなるのは目に見えているからピッチャーを何個か持って行くか。オーダーとるの大変そーだなあ…。

「お冷お持ちしましたー。ご注文はお決まりですか?」
「オレ、ブタ玉とイカ玉、シーフード玉と」
「ノヤさんオレも!オレもブタ玉!」
「だああ日向待てコラ注文取りにくいだろ!」
「あの、このカレーお好み焼きって何カレーっスか」
「影山ァ!」

まるで動物園のような状況に驚き固まっていると、やっぱり三年生らしい優しそうな先輩が「ごめんね」と謝ってくれた。いやいや、そんな。うるさいのあっちの方だけなんてあなたが謝る必要なんてないです。とか思ってたら、まるでお父さんのような威厳を持った人が何やら注文をまとめてくれていた。

「ブタ玉!」
「ハイッ!」
「うっス!」
「はい!!」

その人が言ったメニューを食べたい人が手を上げる方式らしい。手の上がった数をメモしていく。とっても楽だ。さすが上下関係がはっきりしている部活だとこんなこともできるのね。そういえばカレーのこと聞かれたんだっけ。「このカレーはビーフカレーなのでちょっと辛めです」と説明すると、何故か口を尖らせて不満顔をされた。なんでだ。辛いのダメとか?それなら、「トッピングに温玉があるので、そちらをつけると味がマイルドになって食べやすいですよ」そうアドバイスしてみたら、さっきよりも凶悪な顔をされた。えええ、だから、なんでだ!

オーダーのメモを見てげっそり。本当によく食べるなあ。食べるのわたしじゃないのにげっそりしちゃう。店長にオーダーを通すと、一回目を真ん丸にしてから笑っていた。用意が出来たものを片っ端から運んでいく。お客様に頼まれたらわたしが目の前でパフォーマンスがてら焼いて見せるのだけど、さすがにこの人数のお好み焼きを焼いている暇などないので、ひとつだけお手本として焼いて見せて後はそれぞれ好きにしてもらうことにした。


「おおー、すっげえキレイに焼くなあ!」
「でしょー。で、あんまり広げすぎちゃうとひっくり返しにくいので、これくらいがやりやすいです」

みんな面白いくらいに、おおー!と反応してくれるので何だか照れてしまった。


 


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