お好み焼き奇想曲

うちゅうじん


英文をひたすら訳す。どうして日本人なのに英文なんか訳さなければならないんだ。日本語って美しい!ってこないだテレビで外国人が褒めてたぞ。足元見なきゃ意味ないぞ日本の教育。だなんて無駄なことを考えるせいで、次の授業の予習が進まない。次当たるかもなのになあ。くっそう。ジョニーは、悪夢を、見た?なに、宇宙人の夢?ジョニーよ、宇宙人の夢くらいで悪夢だなんてどれだけ怖い宇宙人に会ったんだ。

「よう、紗希乃」
「…謹慎とけたのノヤ」

ノートに影が差したから顔を上げると、隣りのクラスのノヤが笑顔で立っていた。わたしの前の席の椅子に座って、話しかけてくる。

「部活はまだ禁止だけどガッコは今日から」
「ほう。で?どうしたのさ、わざわざこっちまで来て」
「回覧板、お前んちまで回って来た?」
「たぶんまだだけど…回覧板がどうしたの」
「オレが見ようと思ってたのに、気付いたらおふくろが回してたからお前んちまで回ってねーかなーって思ってよー」
「おばさんいつ回したって?」
「一昨日くらいだな」
「じゃあ今日は来ないよ。うちの前の山田さん、いっつも数日間持ったままだから町内会長さんに注意されてるらしいもん」
「マジで?」
「まじまじ。ていうかさ、なんで回覧板よ。今さら町内会の子ども行事行くの?」
「や、行事はさすがに行かねーよ。高校生が行ったら浮くべ」
「ノヤくらいちっさかったら浮かないって」
「言っとくけどお前も同じくらいだかんな!」
「わたしは女子の平均身長だもーん」

うるせー!と騒ぎながら、ノヤがわたしの英語のノートに意味不明の物体を書いている。何だこれは、宇宙人か。さっきまで訳していたジョニーのことを思い出して変な気分になる。確かに、こんな生き物がたくさんいたら悪夢だと思うに違いない。これ以上未確認生物を増やされないようにノートを取り上げると、机に直接落書きし始める。止めてもおもしろがって書き続けるから、2・3匹書かせて、回覧板が届いたら連絡するという約束をして、しっしっと追い払った。


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