365 | ナノ

Category:浜田と泉
2014 16th Mar.

★ 僕の声は貴方の為、貴方の音は僕の為

【バンドマン(Gt.)とバンドマン(Vo.)】
※バンドパロ、泉の女装あり



 メロディーラインを奏でるギター、それを支える強いベース、それらを修飾しリズムを刻むドラムの音と、曲の表情とも言えるボーカルの歌声。
 鼓膜と肌を震わせる爆音を詰めた狭い狭い箱の中、暴れるお客の熱気と自分達の音楽を掻き鳴らす夜は目眩を感じるくらいハイになる。

 それはメンバーもお客も同じだろう。
 ボーカルがサビを歌い終わるとギターソロだ。それと同時に金髪のギタリストが上手からセンターへ移動し、しばらくのパフォーマンスタイムが始まる。

 うちのギタリストは結構人気があるので、前の数列の子たちが一斉に色めくのが雰囲気でわかる。
 彼はバンドの花形ギター担当であるし、リーダーでもあり作詞作曲を多く手がけている為に、その世界観がそのままバンドコンセプトであるのでボーカルと同じくらいメディアにも取り上げられる。
 その最大の魅力は、人懐こい笑顔だろう。あまり美形というわけではないが、人好きのする顔で笑うのでファンの間ではもっぱらかわいいと言われている。

 ただ、色めき立つギターソロの間、不機嫌になる人間が一人だけいた。

 彼はセンターに来た金髪ギタリストと立ち位置を交替するように一度上手へ捌けたが、不穏な空気を一瞬だけ纏うと、再びセンターへ戻った。
 しかしそこには金髪がいる。間奏の間にボーカルが他のメンバーに絡みに行くことはよくあるが、このバンドではわりと極端だ。

 メンバーと長いファンなら、ボーカルの一瞬の不穏ですぐにわかる。
 彼はおでこ靴をガツガツ鳴らして金髪の程近くまで寄ると、金髪の顔を両手で掴まえディープなキスをお見舞いした。


 キスはわりと、この界隈じゃよくあるパフォーマンスだ。気が高ぶると同性だとかはどうでもよくなりあちこちで見られるが、うちのボーカルのそれは完全なる嫉妬から来ている。
 それに気付いているのはメンバーだけ、と言いたいところだが、このバンドもそろそろ活動がちゃんとしてきて、古参のファンにはバレてるんじゃないだろうか。

 それが、このバンドのベースを担当する梶山の目下の悩みだった。


「よくまああれでソロやりきったよ浜田。」

「頭真横で体は客席向いてたのになー。」

「おー、さすがにそこはプロ意識でやりきった。」


 ライブ後、アンコールも盛況のうちに終わり、とりあえず楽屋で軽く内容を振り返りながらそんな話をする。
 一服しながら話す梶山と、彼から煙草を一本失敬して話に乗っかるのがドラムのウメ、二人に話を振られて笑っている金髪が件のギタリストの浜田だ。
 話題は必然と終盤のディープキス事件になる。よくある事とはいえ、あんなに思いきり外へ首を捻って演奏するのはさすがにリスキーだ。よく手が止まらなかったなあと軽く笑うが、この先中断してしまう事があってもおかしくはない。
 笑い話にしきれない面々のそばで、話を黙って聞いていた細身の少年が不機嫌そうに口を尖らせた。
 弁明の内容は、端的に言うと「オレわるくない」というものだった。


「こいつがキャーキャー言われてヘラヘラしてんのが悪ィんす。」

「えっオレのせい!?」

「おまえがヘラヘラするからだろ! オレにだけデレてろ!」


 そりゃ完全に責任転嫁だ、と楽器隊は思ったが、バンドの王子さまの機嫌を損ねるとまずいので、とりあえず迎合した。
 同い年の楽器隊より一つ下の彼こそが、本番中に本番をやりかけたボーカルの泉という。彼はボーカルというバンドの顔であり、かつ実質的なメインでもあった。

 浜田をリーダーとして作られたこのバンドは彼の世界観をベースに、真ん中へ泉を据えて「作り上げる」プロジェクトと言っても良い。発案者の浜田でさえ自分を副菜程度にしか考えていない、泉の為のバンド活動。
 その最たる例が、泉の纏う衣装だ。今はアンコール後なので上はライブTを着ているが、バンド活動の際彼に割り当てられる衣装は、いわゆるゴスロリという女の子の為の服だ。
 この界隈には「女形」と言われ女装をするメンバーもよく見られるが、特に泉は目が大きく輪郭を含めるパーツが小さいので顔立ちは女の子に近く、また細身なのでこの衣装がよく似合う。

 男性に女装をさせるというご高尚な趣味を頽廃的な美と言い換えて、それをコンセプトに展開される世界観が一部の層に大ウケしているのだ。
 見た目が女性らしいのに、激しい曲調や泉自身の気質から出る荒々しい煽りがまた良いギャップらしい。
 泉は女装などという趣味はないが、浜田が言うので黙って従っているだけだ。
 つまり、そういう事なのだ。

 浜田と泉は恋仲だ。
 リーダーである浜田は表に出さないが、その趣味に付き合っているだけの泉はあまり遠慮がないので、先程のように浜田が他から騒がれると簡単に独占欲の炎を燃え上がらせる。
 そしてそれは、ある意味このバンドの魅力のひとつになりつつあることを、梶山は先日のライブアンケートで知ってしまった。


「ちくしょーデレデレしやがって! つーか今度おまえからも絡んで来いよ!」

「ボーカルのくち塞ぐわけにいかんでしょうが。」

「リズム隊がうまくやってくれるはずだ!」

「イヤそんな信頼されても迷惑だからオレら!」

「……なんでもいーけど、曲はちゃんとやろうぜ……。」


 なんだかんだ言って場数も踏んでいるのでフォローはできるとは思うが、いつかこいつら本番中に本番始めるんじゃないかと梶山は一抹の不安を感じていた。

 そんな梶山は、その日のアンケートで「梶山さんはウメさんと絡まないんですか」という回答を目にする事になるが、それはまた別の話。


―― Visible, Invisible.


一年365題より
3/16「そんな事言ってる場合?」
趣味もりもりバンドパロでした。やりきった。

あまりバンドに興味がないよというかたに、僭越ながら簡単な単語解説をご用意させていただきました。

箱…狭いライブ会場です
煽り…「いけんのかー」「かかってこいやー」等のマイクパフォーマンスです。
上手/かみて…観客から見て右側、ギターさんがいます。左側は下手(しもて)でベースさんがいます。
おでこ靴…爪先がまるっとしてごっついロリータちゃんみたいなお靴です
女形/おんながた…ヴィジュアル系で、女の子の格好をされているメンバーさんをさします
リズム隊…ベースさんとドラムさんです。


 
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