365 | ナノ

Category:浜田と泉
2014 1st Jan.

★ いつもとかわらないこと。

【高校生と高校生】


 ベッドに横たわったまま、甲高い声を出すテレビを見ていた。
 さすが元旦だけあってどのチャンネルも着物を着た正月特番だ。にこにこして新年の挨拶を言祝ぎ、今年の抱負なんぞを述べている。
 まあ、笑顔を向けられるぶんには良いが、全く接点のない人間の抱負を聞かされても右から左へ通り過ぎるばかりだ。きっとその着物の帯を解く頃には忘れている抱負だからというのもあるだろう。


「泉、風呂沸いたよ。入ろう。」

「おう。」


 しかしそんな、毎年代わり映えしない台本でも、会話のネタ程度にはなってくれる。
 相変わらず賑やかなテレビを消し、温いベッドから出ると冬の空気が素肌を刺した。
 当たり前と言えば当たり前だ。部屋は一応ヒーターが働いているが、こちとらそこを素っ裸で歩いている。廊下なんて尚更だ。
 寒いのでさっさと風呂場に直行し、すりガラスみたいなドアを開けて中へ入ると、湿った空気が体を包む。それでもあまり寒くないのは、それが熱を持つものだったからだ。


「わり、先浴びてた。シャワーどうぞ。」

「おう。」


 先にシャワーを浴びていたやつと交代でそこに立つと、居場所のなくなったそいつは湯を張った浴槽に浸かる。
 シャワーも温かくないわけではないが、体を芯から温めてくれるのはやはり風呂だ。そこそこにして、既に男一人が入っている浴槽にオレも入る。
 浴槽は当然のごとく狭い。先に入っているやつは身の丈一八〇センチと無駄にでかく、細身というわけでもないので、アパートのこぢんまりした浴槽なんかは彼一人でも狭いくらいだ。
 オレはどこに行くかというと、そいつの脚の間に座る。へんなもんが当たるが、椅子がわりにしたそいつに思いっきり体を預けているのはこちらなのでまあどっこいだ。

 入れる湯は少ないが、男二人なら肩まで浸かるくらいになってくれる。乳白色のなんだか甘ったるい匂いのする湯をなんとなく両手に掬うと、後ろのそいつはシャンプーボトルの頭をがしゃこんがしゃこんと押して、泡立てた液をオレの髪にくっつけた。

 大きな手の長い指が、繊細に動いてオレの髪を洗う。わりと至福の時間だ。その角張った長い指に梳いて欲しくて髪を切っていないというのも実はある。
 もちもちした泡が髪全体に広がり、頭皮を軽くマッサージするように動く。そちらに集中すると気持ちが良すぎてよだれが出そうなので、オレは先ほどテレビで観たやつを彼に振る事にした。


「浜田。」

「んー?」

「おまえ、今年の抱負は。」

「え、何、急に?」


 浜田というのはそいつの名だ。話が唐突過ぎたのか答えてくれないので、さっきテレビでやってたからと言うと、浜田はやっと納得したようだった。

 抱負ねえ、と浜田は呟いた。ほとんど吐息のようなそれを吐く時も考えている間も、彼の指は休みなく動く。
 しかし彼が答える前に泡を流す時が来てしまった。浴槽から頭だけ出してと言われ、そのようにすると浜田がシャワーで流してくれる。耳の後ろも流し忘れがないように優しく触れてくれて、それがあんまりうまいので、こいつほんとに器用だなあと感心してしまう。美容師になったらいいかもしれないが、彼の接待を受けるのはオレ一人で良いので言ってやらない。

 シャンプーが終わると浜田はまた定位置に戻り、今度はコンディショナーを手に取る。丁寧に丁寧にするのはこういう細やかな手仕事が好きなせいもあるのだろうが、相手がオレだからいっそう時間をかけてくれるのかなあなんてのは、自惚れだろうか。


「うーん、抱負ねェ。逆に泉は?」

「試合でホームラン打つ。そのために部活休まねーで、集中して練習する。」

「へェ、ホームランか。いいねえ…でもあんまり筋肉つけないほうが、オレはいいなァ…。」


 コンディショナーを髪に延ばし、オールバック状態になった頭に浜田はタオルを巻きながら、そう呟いた。
 そりゃあ、抱く時はそこそこに肉が柔らかいほうがいいだろう。けれどホームランを打つのは筋力だけではないのだし、それにオレの体質では浜田が懸念するほどの発達もしてくれないと思う。
 俗っぽい心配の仕方だなあと思うが、来年もこういう関係でいてくれる気があるとわかって、なんとなくホッとしてしまった。

 ホッとしたついで、オレはタオルを巻いた頭を浜田の首筋に寄せて、再び彼の抱負を訊ねる。
 上目遣いに窺うオレを、浜田はにこっと笑って抱き締めてくれた。


「そだなー。じゃあ泉がホームラン打てるように、すげえ応援する!」

「…おまえ今まで気もそぞろに応援してやがったのか?」

「えっちげーよ! 今までもすげえ心込めてたよ!」

「………。」

「あ、わかった、応援もするし、練習も出来るだけ手伝えばいンだ!」

「…今までもそうだったろ?」

「うっ、えーと…。でもホラ、こうやって抱負を立てて、心構えをしてから臨むっていうのが大事なんじゃねぇかなあとオレは思うし…」


 あやふやなことを言うので睨み付けたら、浜田は一所懸命理由を述べ、果ては「な?」とオレの同意を得に来た。いやこれは許してくれという顔だろう。

 本当、しょうのない、かわいいひと。

 少し湯から体を出して、じゃあ出来るだけオレのためになれよとその唇にキスをする。
 軽く触れるだけの、小さな音を立てたそれ。吐息の触れる距離で「な?」と同意を促したら、笑顔のすてきな彼は言葉の代わり、長いキスをして答えてくれた。


―― i want you to be there,
   this time, next time, all time.


一年365題より
1/1「今年の抱負、いってみましょう!」

明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
わたしはお風呂でいちゃいちゃするお話がけっこう好きです。


 
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