Category:浜田と泉
2013 10th Aug.
(猫)海の日射しにご用心
【猫いずみシリーズ】
青い空、白い雲、そしてもひとつ青い海。
太陽が真上よりもすこうし西へ傾く頃、ざざんざざんと音をたてる浜に大きな傘をひとつさして、いつもの四人は食後のお茶をすすっていた。
「あー食った食った。」
「デザートに冷凍みかんあるけど食う?」
「食う食う。つかなんで冷凍みかんなんかあんの?」
「昼飯の保冷剤がわりに入れてきた。」
皿やコップを片して、テーブルがわりにしていたクーラーボックスから浜田が冷凍みかんをふたつ出す。
程よく冷たいそれをひとつ梅原に渡すと、二人してそれを剥き始める。保冷剤と一緒にクーラーボックスに入れてはいたもののさすがに凍みは溶けていて、剥くのもそれほど難しくない。
中のほうだけまだ凍っているみかんの粒をひとつ取って、浜田は隣にちょこんと座っているいずみのほうを見た。
彼はまだ紙皿の上にお昼の焼きそばと鶏の唐揚げを乗せていて、黒い尻尾をぴくりともせずにゆっくりゆっくり食べている。
まだみかんはいらないかなと、浜田は取った一粒を自分のくちに放り込んだ。
「いずみ、海楽しい?」
「ん。」
「そっか。海は逃げないから、ゆっくり食べな。」
「ん。」
聞いているのかいないのか、いずみは唐揚げに箸を刺してぱくつきながら生返事をした。
今日はみんなで海に来た。ひとの多い浜よりも砂利はごろごろしているものの、人気の少ないところを見つけ、午前いっぱいそこで遊んでお昼も食べた。
若いとはいえ、帰宅部が全力で遊ぶと相当疲れ、お昼ごはんを終える頃には最早海で遊ぶ気はない。お腹もふくれて眠いのもあり、高校生組は昼のあと、だらだらとパラソルの下で過ごしていた。
移動中寝ていた梅原なんかは元気だが、梶山と朝早くから起きて昼飯を作った浜田は遊ぶ気が失せている。
いっぺん寝たい。梶山などは既に眼鏡を外しており、昼寝を始める気満々だ。
オレも寝たいなあと浜田が二粒めの冷凍みかんを口に入れると、いずみが箸を置いてちっちゃな両手をぱんと合わせた。
「ごちそうさまでした。」
「お粗末さまでした。いずみお腹いっぱい?お昼寝する?」
「しない。オレうみいく。」
「えっ」
「お、オレそんなら引っ張ってやろっか。」
「ほんと?!ウメ、いこ!」
「おーし、振り落とされんなよー!」
「ちょっ、まっ」
昼飯の直前まで泳いでいて、更に昼飯を食べた直後にまた泳ごうというちびっこの気概に衝撃を受けていると、梅原があっという間にいずみと浮き輪をさらって行ってしまう。
「いーじゃん、梅に任しときゃ。」
「ええ、よくねーよ!日焼け止め塗ってねーもん。」
「日焼け止め。」
梶山の眠そうな目が瞬きする。だって、今日のいずみはハーフパンツ一丁なのだ。ちなみにちゃんとした水着は金銭面で余裕がなかった。
いちおう午前中は半袖のパーカを羽織らせていたが、梅原と飛び出して行ったいずみはそれを忘れて行った。
海に入っていれば暑さは和らぐかもしれないが、肌はこの殺人的な日射しに曝されている。水の中の脚はそうでもないが、上半身はそうも行かない。水に潜るのがきらいないずみのお気に入りは、浮き輪に付いているヒモで水の上を引っ張ってもらう事だ。
お昼を食べたら眠くなるだろうから、お昼寝の後に日焼け止めを塗り直そうと思ったのに。
浮き輪を装備したいずみは太陽光をいっぱい浴びて、梅原と楽しそうに水遊びしている。
「ちょっとこんがりしてたほうが健康的じゃん。」
「あのなあ。帰ってあいつ風呂に入れんのオレなの。絶対泣くよ、あいつ。」
きゃあ、といずみの楽しそうな声がする。水しぶきと日射しを受けてきらきらする仔猫を見ながら、浜田は後の事を思い目を細く細くした。
―― Sunshine-baby!
一年365題より
8/10「日に焼けた腕」
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