Category:浜田と泉
2013 9th Jul.
(猫)都合のいい言葉
【猫いずみシリーズ】
春に拾ったちいちゃな仔猫は、夏になってすこうしばかり成長した。
走るのがこわいくらいだった細うそい脚は跳ぶも跳ねるもかんたんだし、ちいちゃなもみじの手のひらは今やはさみだって上手に使える。
けれど成長はいいことばっかりではなくて、ささいな問題を起こしてくれるようになった。
体とともにちょっとおとなになったおつむは、意図的にいたずらをするようになったのだ。
そうして言葉も達者になって、今やいっぱしの悪がきだ。
「あーっいずみ!」
「へへへ。」
「それオムライスにケチャップかけすぎ!」
「なんとなく。なんとなく、なー。」
昼飯に作ってあげたオムライスは、オレのものだけケチャップを大量にかけられて真っ赤になっていた。
大きめのチューブを抱えるように持つのはうちのかわいい仔猫。嘆くオレを見ていたずら成功とばかりににこにこして、最近覚えた文句を口にする。
「なんとなく」。オレの悪友の口ぐせを真似して、オレの宝物はいたずらを成し遂げた時の決まり文句にしているのだ。
漠然とした意味のそれは、いたずらの言い訳にちょうど良いのだろう。また、いくらすこしばかり成長したと言ってもまだまだ仔猫だから、うまく言葉に出来ない思いを代弁する意味も持つ。
昼を済ませ、オレは洗い物、仔猫には歯みがきをさせて、昼休憩の時間とする。
ふきんで拭いたテーブルの上へ冷たい麦茶を置いて、主婦層をターゲットにした昼下がりの番組を見るともなしに垂れ流す。
音は少し小さめに。すると、お腹の膨れた小さな猫が、目をこすりこすりお気に入りのタオルケットを引きずってオレのもとへやって来た。
「なんとなく、な。」
膝の上へ収まって、大きなあくびをひとつすると、仔猫は一言そう言って健やかな寝息をたて始めた。
テレビを消すと、扇風機がごく弱い風を作って届ける音と微かの寝息だけになる。
いたずらの決め台詞の「なんとなく」は、都合よくピントをぼかしている言葉。恥ずかしくって口に出せない優しい気持ちも表すから、憎めないのだ、この曖昧な一言は。
―― It's magical★word!
一年365題より
7/9「なんとなく」
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