Category:浜田と泉
2013 31st May.
★恋を失い指を絡める
【高校生と高校生】
誰にも言えない恋をしていた。
相手はひとつ上の同性で、憧れを通り越して愛してしまってから、誰にもわからないように細い呼吸をして、小さな恋を守っていた。
誰にも言えない、実る事のない恋である事を自覚してからは、夢を見るようになっていた。
許されないのだからと追い込まれるように抱いた夢はそれ故に有り得ないほど優しく、甘く、心地がよい。
好きだと囁いて触れてくる指が優しければ優しいほど夢は現実から遠くなり、許されない恋を飴玉のようにして口の中に隠して舐めながら、オレは演技をして彼のそばにいた。
それで良かった。実らないならせめて夢を見ていたかった。
なのに現実は夢を見ることすら許してくれなかった。
「オレのこと好きなの。」
舌にくるんでひた隠した恋心の存在を、他の誰でない彼に知られた時、ひどく悲しかった。
好きだった彼に毎日会うたびふくれていく思いは夢にして耐えていたのに、彼にばれてしまってはもう夢も見られない。
それすら許してもらえない。そんなにいけない感情を抱いたのだろうか。好きだっただけなのに。実らせたいと願うことは一度だってしなかったのに。
彼に嫌われてしまうのだろう。気持ちが悪いとか、どう接していいかわからなくなったと避けられて、口を利く事も目を合わせる事もこれきりに失ってしまうのだろう。
恐ろしくなって、逃げようとした。けれど彼はこの腕をつかんで、ねえ、と言った。
そんなに答えが聞きたいのだろうか。そんなにオレをずたずたにしたいのだろうか。オレはそんなに悪い事をしていたのだろうか。
悲しくなって、喉が震えた。彼を好きになってしまったばっかりにひとりきりで、ずっとつらかったのに、それ以上に責め苛むつもりなのか。
ひりだした声は情けなく濡れていた。
「嫌われるくらいなら、言いたくない。」
だから放して欲しいと頼んだ。そうしたら、反対に腕を強く引かれた。
何をされたのかわからないまま耳に触れた言葉はごめんというそれで、とうとう視界はあふれる水のために歪む。
そういう人なんだ。誰にでもやさしくする。でもそういうところも含めて好きだった。
胸を埋めていた恋心は粉々にされて、オレは腕の力を抜いた。このまま気が遠くなって、死ねたらいいのにと思った。
そうしたら夢の中で、甘たるい嘘にまみれてずっとしあわせでいられるのに。
「ずうっとそばにいてくれたんだ。気が付かなかった。こんなに思われてたのに。ごめん」
「………。」
「ああ、そっか。泉、オレ、」
「………。」
「オレも泉がすきかもしんない。」
濡れた目もとに熱いものが触れた。それはひとの皮膚で、体温を持っている。
ゆっくりと視線を上げたら、灰色の瞳がそこにあった。
そして今度は熱が瞼に触れる。ひとつふたつと両目に触れて、オレは恋をなくした事を知る。
粉々の残骸は再び構築を始め、それを導くのはオレのより一回りも大きな指だ。
音をたてて世界が組上がる。夢見る必要のないその世界を名付けるとしたら、何だろう。
まだ真っ暗な視界のまま、オレのではない手と指を絡める。焦がれたその熱と作る世界は、きっと愛という名のそれ。
―― Sayonara kataomoi.
一年365題より
5/31「近すぎて気付かなかった」
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