Category:花井と田島
2013 15th Mar.
○i think so(we sink into)
【高校生と高校生】
公園で一等背の高い、丸こい遊具の天辺から見た景色はいつものそれの二倍くらいの奥行きしかなく、別に何か新しい感情を生んだりなどはしない。
空は晴れても裾野へ拡がった雲が沈む夕陽を食べてしまったのでオレンジ色の夕暮れとはならなかったが、その代わり空の青は明るいままに色調を落として、今は雲の向こうでわずかに光が見える程度の薄暗さ。
もうすぐ降りる夜の帳は、青と鼠の色と白の目映いグラデーション。
まだ冷たい春の風にコーンポタージュの匂いと湯気が白く白くたなびいて、ぽつぽつ灯る町の明かりよりもそれは一層きれいだった。
「眺めはどうよ。」
「あーたぶん花井は普段とあんま変わんねぇんじゃねーかな。」
「いや変わるだろ。おまえはオレをなんだと思ってんの。」
もらった言葉を歪めて返せば期待通りのものが来て、コンポタの缶につけかけた口が笑う。
そうしてそのまま下を見れば合う眼鏡の奥の瞳にこっち来いよと誘えば、子供用の遊具なんて彼は容易く登り詰める。
彼が隣に来て肩を並べる頃には既に日は落ち雲に呑まれて、青というよりは藍色になった世界へ背の高い街灯が立ち並び、横切ってゆくものは車やバイクのライトとあとは下弦の月くらいだ。
二人揃ってそれを眺める。吐く息は自分がコンポタ、彼のがココアだ。
乾燥している大気に白くけぶるようなそれに、彼の方を見た。
「………、なんだよ?」
「にひひ。」
藍色の街へ灯る数々の明かりと人の息。照れる彼に笑って返しながら、そんなものは深くなる夜の色に呑まれてしまって、世界が彼と自分と夜とこの丸こい遊具だけになればいいのにな、と思った。
いや少なくとも今自分の目にはそれが世界のすべてだ。
二百度程度のこの視野に映るのは大半が隣の彼の姿で、あとは端々に街灯とか木とかがあるが、そんなものは僅かでしかない。
だいすきな彼しか見えないというのはいつもの事。目を開けていれば大抵何でも見えるけれど、興味のないものなんてほとんどこの目は見ちゃいない。
いくらかのすきなものと、そうして彼。それぐらいしか見えないし、見ないし、また世界はそれでいいと思う。
近づけば近づくほど視界が彼でいっぱいになる。ココアちょうだいなんて言って近づいて不意打ちにキスしてしまえば世界は自分と彼だけになる。
早くそうなってしまえばいいのに。
暗くてもわかるほどしどろもどろに照れる彼がかわいくって笑いながら、彼の瞳に映る世界もオレと同じに歪んでしまえばいいのにな、と無言のうちに願った。
―― i think, no, it is desire.
一年365題より
3/15「瞳に映る世界」
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