Category:浜田と泉
2013 4th Mar.
(魔)★ よくお似合いでお嬢様
【魔王番外】
※女装ネタ
冒険は先立つものがなくては立ち行かない。
それは先日シュンが加わったはまだといずみのパーティも同じ事で、行く先々で仕事を請け負いながら路銀を稼いでいる。
新しい町に着くと情報が集まるところへまず出向き、魔物の討伐であるとか、アイテムの入手や作成などのクエストから自分にあったレベルのものを選んで請ける。
クエストをもらってくるのははまだの役目で、今日も請けたものをこなすため今は準備をしているところだ。
けれど椅子に座って一方向を見つめているシュンは、首から下げたネックレス以外の装備をすべて外していた。
今日はシュンも参加する。けれど剣すら持たない普段着の格好が、今回のシュンの仕事なのだ。
いや、自分など相当ましだ。窺うように見るその目の先には、女の子の服を着たいずみとそれをいじくるはまだがいた。
「………。」
「ちょっと口開けて。…ん、おっけー」
いずみの細い顎に指をかけて上向かせ、対の手に口紅を持ったはまだを見てシュンはうわあと思った。
今回のクエストは捕り物で、最近出没するという盗賊を拿捕するために、いずみとシュンは囮としてこんな格好をしているのだ。
男が二人じゃ警戒されるというのでいずみが女の子の格好をすることになったのだが、はまだの陰謀のような気がする。
「よーし、じゃああとヅラな。」
「ん。」
村の女の子が着るような服をはまだはどこから調達したのか、それもいずみにぴったりのものを誂えた。
長いスカートに羽織りものでそこそこに体型をカバーしたいずみは、化粧と胸に入れた詰め物も相まってほとんど女の子のようになっていた。
前線で戦ってはいても彼はもともと線が細く、その上顔の造りが女の子のようなのでこの格好でもあまり違和感がない。
シュンからは真横に向いた顔が見えるので、何やら化粧で助長された睫毛が伏し目になり、はまだに調整されているかつらの長い髪が顎の下まで垂れて揺らめいているのをじっと見ていた。
正解な気がする。いずみが女装するのははじめから決まっていたが、自分が言われなくて本当に良かった。
そうこうしている間に女の子がひとり、出来上がったらしい。
跳ねたかつらの髪を指で直し、はまだのそれはいずみの左の耳の上へ白い花を挿して終わりだと言った。
彼の吐くため息の満足げな事。その言葉をもらったいずみは再び長い睫毛を上げて、立ち上がった。
「で、もう行っていーのか。」
「もーいずみまじ似合う!ちょうかわい…げふっ」
「聞けよオイ。」
「えぇ、もっと見てたい…あわわウソ嘘行っていいよ!」
浮わついているはまだを一発で正気に戻し、出立の許可をもらったいずみはシュンのほうを向く。
その姿のきれいな事。一瞬目を奪われたシュンは、二度名を呼ばれてやっと椅子から飛び上がった。
「行ってくる。」
「おー、ちゃんと近くで待機してるから大丈夫だよ。あとはいつもどおりにな。」
「おう。」
「あのー、いずみさん、」
普段よりずっと長い髪が、動く度揺れるのを軽くいなすいずみを見て、シュンが口を開く。
部屋を後にし通りを行くと、すれ違う人が時折引かれたように目をこちらに向ける。
変身したいずみはきれいだった。颯爽と自分の前をゆくひとに、いつもって、この格好するんですかと問うと、いずみは助長された睫毛の奥でちらとだけこちらを見て、すぐまた前を向いた。
「オレは慣れてるぜ。」
見た目は可愛らしい女の子だが、柔らかそうな薄桃色の唇から出たのは男の声だ。
慣れてるって、それはそれでどうなのだろうか。少し気を弛めるとスカートから出たブーツに置いて行かれるので、シュンは待ってと小走りについて、町を出た。
―― (Rea/Le)dy st(ea/u)dy Go!
一年365題より
3/4「その姿、様になってるよ」
本編番外でアップ予定のお話のおまけみたいなものです。
女装はわたしの陰謀です。
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