Category:浜田と泉
2013 22nd Feb.
★決して口にしない言葉
【魔王番外】
グラスに注いだ酒が僅か残り、氷塊を撫ぜて底にて揺らぐ。
きらきらと光を溶かすその向こう。同じグラスを持つひとを見とめ、その肩口に額をつけた。
「どしたの、いずみ。」
「ん…。」
アルコールより疾く疾くからだをめぐる声は耳から流し込まれて、それに身を捩ると小さく笑う声が触れた。
こぼれた髪を掬って耳へ掛ける指を、いずみは横目に見る。
その手を下ろされる前に取り、その指へ指を絡めると、いずみかわいい、と声は言った。
かわいいと、好きだと彼はよく嘯く。
いずみの欲しいものはまるでそれひとつきりで、他はなんにも欲しくない。
その唇に好きだと耳に説いてもらい、同じ唇に触れてもらい、指で髪を梳いてもらい、その腕の中に収めてもらい、その眼に自分だけを映してもらう。
つまりいずみの欲しいものは、彼の好意ひとつきり。
しかし望めばいくらでも降って来るように思えるそれを、いずみは信じていなかった。
「はまだ」
「うん?」
「キスしたい。」
「うん。」
請えばいくらでも降って来る。でもそれでは駄目なのだ。
小さい頃から彼の事が好きだった。
誰より格好良くて、優しくて、誰といるより楽しくて、いつも後ろをついて歩いた。
彼もいずみには人一倍構ってくれて、大切にされていると思っていた。思っていたのだ、あの時までは。
憧れがいよいよ恋に変わった時、はまだはいずみの前から姿を消した。
何も言われなかった。他の多くも聞いていなかった。極々少なく行方を知るひとはいたが、自分にはそれすらも言われなかった。前日にも会っていて、また明日と言ったのに。
何とも思われていなかったのだ。
それから彼を探し出して、今や隣で睦言を囁かれる距離にはいても、その事は深い深いとても深い傷になった。
好きなのに信じられない。
こんなふうに囁いておいて、明日の朝には隣から居なくなっているかもしれない。
そんな事がないとは絶対に言い切れない。彼の考えている事などわからない。
「目、閉じて。」
「ん。」
請うたくちづけを瞼に受けて、いずみは繋いだ左手の力を強くした。
こうして繋いでいる間は傍に居る。けれどこの瞼を上げた時には掻き消えていてもおかしくない。
あの時のように。
ある言葉はいつも喉までせり上がっては結局腹の底へ落ちる。
歯の奥をきゅっと噛み締めて、いずみは瞼を上げられなかった。
ーー i want your words, fingers, lips.
But i really want to say,
一年365題より
2/22「半信半疑」
のーせんきゅーですいずみさんと繋がってます。
ふつうのhmizでも良かったような気もしますが、これが魔王本編のhmizでもう一度出てきます。今回は前哨戦みたいなもので。
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