Category:ss
2014 11th Sep.
★ 月夜心中
【病んだ彼氏ともっと病んでる彼氏】
「泉。」
浜田がそう言って自分の肩口に頭を預けてくる重みを、泉は天井を見ながら感じていた。
ぐ、と重みで下がる左肩へ手をやり、意外と指通りの良い金髪を撫でてやる。
指で梳くように、毛先のほうへ向けて頭を撫でる。
小さな子どもにするように。
自分より頭ひとつも大きな相手に対して子どもみたいだなんて可笑しいが、こういう時の浜田は本当に幼い、まだ弱い弱い子どものようだった。
「泉。」
付き合うようになってしばらく、浜田は弱い部分も泉に見せてくれるようになった。
いつも明るく朗らかで、誰からも愛される浜田。そんな彼が垣間見せる弱さは、泉に対して甘えのような形で現れる。
大抵が夜だ。いつもの快活な笑顔を作ることなく、ぼんやりとした表情で泉の腕の中へやってくる。
そういう時、抱きしめてやったり、頭を撫でてやると、浜田は落ち着くようだった。
何も言わずに撫でてやるが、あまり長引くような時は大丈夫だと言ってやると眠ってくれる。
今夜もそんな気配だった。泉、泉と名だけ呼んで、浜田は俯く。泉からは、その表情は見えなかった。
「泉。」
「ん。」
「泉。」
「おう。」
泉、泉。
繰り返される言葉の続きを、浜田は決して口にしなかった。
「泉。」
「うん。」
でも泉には、それがなんとなくわかっていた。
「泉。」
浜田は続きを口にしない。
続きなんてないのだから。
浜田は、泉に何も求めていない。
泉が隣に居てくれさえすれば、彼はそれ以外何も求めちゃいない。
でもそれは優しさなんかじゃあない。
泉に何も求めない反面、浜田は泉を求めていた。
優しくしてくれる泉、すべてを受け入れてくれる泉、言葉、心、手のひら、そのすべてを求めていた。
それに応じて泉は手を伸ばす。金髪を梳いてやり、大丈夫だとささやいてやり、抱きしめてやり、一緒に眠ってやる。
そこには泉の意思なんか、どこにもない。
浜田の意のままになる泉がいるだけだ。
「泉。」
「大丈夫だよ。浜田。」
「泉。」
もしかしたら求められているのは自分じゃなく、熱や手のひらかも知れないが、まあそれでもいいやと泉は思っている。
少なくとも、その間は浜田を腕の中に閉じ込めていられる。
体でもなんでも求められているのならそれで構わない。どろどろに甘やかして中毒みたいに、オレから離れなくなればいい。
浜田を閉じ込めていられるなら、なんだって良いや。
自分が浜田よりおかしくなっているのを知っていて、泉は今夜も呪いを吐く。
「大丈夫、浜田。オレがずっとそばにいるから。」
そうして腐った魂は、今夜も月の影で心中する。
―― Suicide Pact.
← →