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2014 9th Sep.

☆ 名月空を行く
【高校生と高校生】


 規則正しい寝息の音、その中に、月の飛ぶ音がする。
 静かに静かに窓を開ければ、ほら、あの大きな天体の動く音が。

 低く鳴くようだ。建物の合間なんかを通ると、町の雑音も間々聞こえる。
 でもこれは月の飛ぶ音。今夜の月は大きくて綺麗だ。いつもよりずっとはっきり見えるあの石が、笑いながら夜を昇ってく。

 すっかり暮れた夜の天張りは透き通った藍の色だ。そこに一層色を上塗りするのはあの天体。皓々皓々と今夜は一段目映い月は、自分が天辺にいるのを良いことに、夜の裾野のほうまで光で照らす。

 藍色の夜に投げかけられる黄色の月光。
 それはオレの手元まで降りてきて、開け払ったガラス窓の形に入り込む。

 ベッドは月色。藍と黄のないまぜになって、なんだか若草色の光線だった。
 窓に区切られ四角く侵入する光は容赦なく寝ている彼を照らし出す。
 オレと同じベッドで眠るひと。
 大切な大切なひと。
 その安らかな寝顔を見るために、オレは睡眠時間を削っている。


「阿部、くん」


 短い黒髪と割に整った顔が、夜に浮かび上がる。
 阿部くんの顔はきれいだ。眠っている今は眉間にしわもなくて、何も気にすることなんかない夢の中だから、今の彼はとても穏やか。

 阿部くんの寝顔。
 機会があれば、オレはいつもそれを見ている。

 何の感情もない阿部くんの寝顔。
 夢なんか見ないのだろうか。
 それでも穏やかなら構わない。
 その安らぎを、オレは黙って見ていたい。

 黄色の名月は皓々、皓々と空を行く。
 日が上るまでのわずかの間。
 オレはずっと、彼が穏やかで眠ってくれるよう祈って過ごすのだ。


―― Twilight


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