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2012 10th Jul.
★ 710.
被ったタオルで洗いたての髪を拭くと、自分の家のそれとは違うシャンプーの香りが髪からする。なんとなくその香りを肺いっぱいに吸い込みたくてしばらく突っ立っていたら、ごはんの用意が出来たから来いよと声が呼んだ。
「なにしてんの泉。しかも髪拭いてないじゃんか、」
「今日の飯なに。」
「梅肉のっけた冷奴と、オクラ納豆ごはんと味噌汁と海草サラダ。」
ふうん、とオレはテーブルの上に並べられた品を見る。その前に腰を下ろすと、被っていたタオルで髪をがしがしやられた。
「もー、風邪ひくぞー。」
「それならもうちょっと火通したもんだせよ。つーか肉だせよ。」
「味噌汁は温かいし、オクラも茹でたから火通ってるよ。肉は鶏ササミがサラダん中まじってるし。」
「まじってんじゃなくてメインがいーんだよ。」
ぐだぐだと言いながらも本当はしあわせだ。髪を拭いてくれる大きな両手のひらは優しいし、楽しそうな声音が後ろから耳に触れるのがくすぐったい。
今日は浜田の部屋に泊まりなのだ。そうすると、部活上がりのオレを浜田は風呂に入れてくれて、飯を作ってくれて、隣で眠ってくれる。今日はそういうしあわせの日なのだ。
「まあでもうまそう。いただきます。」
「はいはいどうぞ。飲み物なにがいい?」
「麦茶。」
あらかた水分の取れた髪をタオルで巻いて、浜田は冷蔵庫へ行く。ヒトをパシリに使いつつ、オレはといえば、用意された飯を食う。
「うまい?」
「ん。あのさあ、」
「なに?」
「オマエって納豆好きなの?」
「あー。まあ急いでる朝とか楽だよなあ。」
「よく出すじゃん、納豆。つーか豆腐もよく出んね。大豆好き?」
「いやいやぁ。泉サンの為ですよ。」
タンパク質ですよ。筋肉つけるにはタンパク質とらなきゃね、と浜田は二つ持って来たコップの両方に麦茶を注ぐ。ひとつはオレ、ひとつは自分の口に持って行くのをオレはじっと見る。
喉を鳴らして麦茶を飲み、視線に気付いた浜田は笑う。その言葉が冗談だろうと本当だろうと、浜田がオレの事を考えてくれているのはよくわかっている。オレに優しくしてくれる、甘やかしてくれる手のひらが頭やなんかを撫でてくれる時、ああ大切にされているんだなあと感じる。
あんまり言ってはやらないが、それに報いる言葉はなんだろう。とりあえずオレの為にいつもうまい飯を作ってくれたので一言。
「飯、うまい。」
「うん。」
「タンパク質はどうかわかんねぇけど、オマエの変にマメなとこ、わりと好きだぜ。」
「うまくまとめたなあ。オレも泉のそういうとこ好き。ありがとね。」
「ん。」
まあたとえなんだって二人で食べる飯はうまいんです。
そんな今日は、七月十日。
ーー 7=Na 10=Toh
納豆マニアとして納豆の日である今日はネタにせねばなるまいと思い立ったはいいが、一時間じゃこれが関の山でした。
納豆の話じゃないし。大豆の話になってるし。
そういえば大豆に含まれるイソフラボンは女性ホルモンの関与する髪にも影響するそうなので、こうやって食ってた飯が泉の髪を伸ばしたとかそういうのもおもしろいかなと思ったのですがどうでしょうか。
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