Notiz | ナノ
Category:SS
2013 15th Oct.

(猫)あらしのこねこ

【ねこいずみシリーズ】




 雨がばたばたと降っていた。
 それが風に乗って、ガラス窓や壁にぶつかって、いやな音をたてる。
 とても強い風は部屋を吹き飛ばしにくるようで、いずみはなるべく窓から離れて浜田の横っ腹にくっついていた。


「……。」

「水とー、菓子パンとー、タオルとー、懐中電灯とー…」

「……。」

「あと着替えっと。投げ売りのラジオ買っといてマジ良かったー。まあこんだけありゃ十分でしょ、いっずみー」

「……。」

「明日なにして遊ぼっか。ガッコ休みになったしバイトはもとからなかったから、明日はずっと一緒にいられるぞー。」

「……。」


 バックパックにいろんなものを詰め込んでいた浜田がそれをしまい、いずみをぎゅっと抱きしめる。
 学校もバイトも休みだなんて言ったら普段のいずみなら大喜びで遊びの予定をたてるのに、今夜のいずみはとても大人しかった。
 いや、大人しいのでない、緊張しているのだ。高級なびろうどのようないずみの猫耳はぴんと立って、尻尾の毛もびりびりと逆立っている。心なしか鼻息も荒い。

 まあ無理もないか、と浜田は小さな頭を撫でてやりつつ、垂れ流していたテレビを見た。
 収録済みのバラエティ番組の画面上にさっきからずっとテロップが流れている。内容は、この国になかなか大きな台風が近づいていて、今はどのあたりにいるだとか状況はどんなだとかいうので、そんなのがどこの局でもくっついているのだ。
 なんでも近年まれに見る大型のものらしい。可哀想に、そんなものを今年初めて経験する浜田の仔猫は、まさに借りてきた猫のように縮こまってしまっていた。

 もう夜で空の様子などわからないが、いずみはずっと外を睨んでいる。
 この真っ暗い空から得体の知れない怪物が迫っていて、今にも自分と浜田を吹き飛ばしにくるとか、そんなことを考えているのかも知れない。

 いずみがどんな怪物を想像しているかはわからないが、自分が太刀打ちできるような感じだろうか、と浜田は考えてしまった。


「いずみ、もう布団入ろっか。ほれ行くぞー!」


 抱きかかえたいずみをジャイアントスイングよろしく振り回して、少し勢いを落としてからベッドの上へ放り投げる。
 すぐに浜田も布団の中へもぐり込んで、いずみを腕の中に入れた。先日出した毛布は今日あたり過ごしやすそうだ。三角耳の間に唇を寄せぷうっと息を吹き込む。
 すると、久しぶりにいずみが動いた。急に頭があったかくなったのがいやだったのが、浜田をばかと罵りながらかぶりを振る。
 それが面白くて、浜田は笑った。いじわるしてしまった仔猫のおでこに、ごめんねのキスをする。


「ごめんて。お詫びに、明日はオムライスしてやる。な?」

「…オムライス」

「そ。ふわとろたまご、いっぱいかけて、ケチャップで絵書いてやる。ポトフも作って、たこさんウインナーいっぱい入れてやる。」

「オレ、ハンバーグも食べたい。」

「ハンバーグかー?ハンバーグ…うーん、考えとく…。」


 結局、仔猫の想像した怪物を倒したのは、浜田じゃなくて好きな食べ物のほうだった。
 ちょっと悔しい気もするが、いずみの暗い顔なんて見たくないので、浜田は素直に敗けを認めた。


 外は相変わらず強く風が吹いている。
 でも嵐が去った後は、雨上がりの綺麗な空が広がるものだ。
 風は強いか知らないが、その後に待つものを見たらいずみはどんな顔をするだろう。
 そんな事を思い、浜田は仔猫が寝つくまで、色んな話を聞かせてやった。


―― Blow down, Blow down
   and There are the BeautifulWorld.


明日の休みが確定したので、急きょ時事ネタSSを。
最近始まりからオチまで一辺倒で面白くないですね。
がらりとべつの感じで、気分も新たにしたほうが良いでしょうか。

何か方法探してみます。



 
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