桜咲く・上(現パロ)
※准教授リヴァイさんと女子大生ペトラちゃんの出会いの話をサラッと書こうとしたらやたら長くなり、とある社会人リヴァイさんとJKペトラちゃんになってしまいました;
推敲は殆どしていない一発書きみたいなザッとした話です。






 まだ寒い冬の夜、学校帰りにノートをコピーしようと近所のコンビニに入ったら、先客さんが大量コピー中。でも近くにコンビニ無いし…と思ってお菓子でも見ようとしたら、
「どうぞ」
 掛けられた低い声に先客さんを改めて見ると、黒縁の細い眼鏡に紺色のスウェットの上下、素足にスニーカー…私よりかろうじて高い、細身の二十代後半くらいの男の人…寝間着のまんま出てきたのかな?

 それがあの人への第一印象だった。



 あの人の何歩か後ろを歩く。店を出たのがあの人のすぐ後で、帰り道が同じ方向だから。
 意外と広い肩幅だなとか、何故か気になって見てしまう。あの人は振り返ることなく、やがて右手にあるマンションに入っていった。
 ご近所さんにしては初めて見る人で、まあ、この辺の人を全部知っている訳では無いし…。たまたま会った人のことはすぐに忘れるだろうと思っていた。


 でもそれからほぼ毎日、その人を見掛けるようになった。部活で同じ時間に帰る私と同じような時間にコンビニ周辺にいる人。
 何の仕事をしているかは分からないけど、大抵スウェットの上下を着ているので、私の中では『スウェットさん』になっていた。
そして大抵私かあの人が前後で歩いて家路につくということが2週間くらい続いた。
 別に話すこともなく、挨拶もなく、私が勝手に見ているだけなんだけど、点いていない街灯がチラホラある暗い夜道に一人ではないことにどこかホッとしていたのかもしれないと気付いたのは、それから更に数日経った時だった。



 その日はいつもより更に帰りが遅くなった。
 部活後にファミレスで友だちと進路とかについて話していたらあっという間に九時を回っていた。お父さんには電話していたけど慌てて帰っていたら、点いていない街灯の下に見慣れない男の人が二人、狭い道を挟むように立っていた。
 顔は暗くてよく見えなかったけど、私を見てニヤニヤと目配せして…何だかイヤな感じがして、でもその道を通らないと帰れないからと、隙を見せずに一気に通り抜けようとした時、グイッと二の腕を掴まれた。
「―っ!」
 服越しに掴まれた感触とククッと笑う声に鳥肌が立つのに声が出ない。もう一人にも掴まれそうになった時、
「邪魔だ」
 空いている方の腕を捕まれ、後ろに引き寄せられて背中が当たった先に、あの人がいた。
「お前こそジャマすんなよ、チビ!」
 あの人の後ろに庇われた私が見たのは、掴みかかられそうになったあの人が、一人の男を盾にしてもう一人の拳をそれで受け止めた光景だった。一体どうやったかは分からないけど、盾になった男は後ろ手に締め上げられている。あの人、強いんだ…。
「まだやる気か」
 さらに足払いまで掛けて男たちを倒れさせたあの人の、低くてドスのある声。
男たちが走り去った後、私は力が入らずにペタンと冷たい道路に座りこんでしまった。
「おい…」
「だ、だいじょうぶ、で、す…」
 …こんな近所であんな…。震えが止まらない私の目の前にあの人が座り込んだ。あの人は眼鏡の奥の切れ長の瞳でジッと私をみつめ、ポンと頭に手を置いた。
「…怖かったな」
 目付きも声も優しく感じられて、不意に視界が滲んだ。
「…うっ……くっ…」
 私か泣き止むまであの人はそばにいてくれた。寒空の下、頭に置かれた手は温かった。


 それからあの人と帰る時間が合うと話すようになった。私から一方的に、時々あの人がひとことふたこと返すくらいだったけれど。
「あの時はコンビニからお前が歩いて行くのが見えた。その前に同じ方向にアイツらが行ったのを知ってたから、何となく気になってな」
 点いていない街灯も多いしなと、あの人は私を助けてくれた日のことを話してくれた。
「あの時は本当に助かりました。スウェットさん、強いんだなって」
「スウェット…?」
「あ! や、その、あの、お名前存じないんで、その…」
「…まあ、確かに家帰ってからはこんなんしか着てねぇな」
 ちなみに今日は紺地に白いラインが入ったスウェットの上下だった。
「あの、私、ぺ…」
「いい。どこで誰が聞いてるか分からん。用心しとくに越したことはねぇ。若い女が身内でもねぇ奴に簡単に名前とか言うな」
「は、はい。でも…」
「俺のことは好きに呼べば良い」
 結局名前は教えてもらえなかったけど、『スウェットさん』と呼んでいたことを怒られなくて良かったとちょっとホッとした。
 スウェットさんは言葉使いは些か荒い気もするし言葉自体足りないかなと思うけど、平日だけの10分そこらの道行きがとても安心出来て、たまにいない時は不安になって、スウェットさんがいなかった翌日は「昨日は大丈夫だったか」と必ず心配されて。
「兄ってスウェットさんみたいな感じなんでしょうね」
「…父親とか言われなくて良かった」
 そう言うちょっとホッとした顔に何となく笑いが込みあげてクスクス笑ったら、「笑うな」と軽く小突かれ、そんなやり取りが少しずつ増えてきて、それが無性に嬉しいのがなぜか分からなかったけど、ご近所の梅が咲き終わり桜がつぼみを大きくした頃、スウェットさんに会えない春休みが始まった。



〔下に続く〕
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