分かち合う
内地の支援者からだという菓子ー砂糖の塊のようなものの中に砕いた木の実などが入っている、見るからに甘ったるそうなそれを、リヴァイは口にしていた。
大抵そういう甘い菓子類は部下に回すリヴァイであったが、兵長も甘いのを食べたい時もあるわよねと、傍らで茶を淹れるペトラは何の疑問も抱かずに横目でその様を見ていた。
と、リヴァイが菓子の半分を噛み千切り、ペトラの目の前に差し出した。

「食うか?」
「え? あ、あの…す、すみません、私、別に食べたいとか…」

じっと見てしまったのかもしれない。ペトラが恥ずかしくなって俯くと、小さな嘆息が聞こえた。

「食ってくれねえのか?」

あまり聞いたことのない響きの声にペトラが顔を上げると、不機嫌とも寂しそうともつかぬリヴァイの顔…もしかしたら想像よりずっと甘過ぎて、でも残すとか捨てるとかなんて出来ないから私に食べてくれとか言うのかも…ペトラはそう結論づけて左手を添えた右の手のひらをそっと差し出した。

「…いただきます」
「違う。口開けろ」

え? という言葉は音にならず、呆然としている間にも、リヴァイは机に手を付いて身を乗り出すと、菓子を摘まんだ指をペトラの口先まで持ってきていた。

「食ってくれるんだろ?」

言葉だけの意味ではない、もっと別な何かを感じながらも、ペトラはおそるおそるその小さな唇を開いた。
伏し目がちに頬をうっすら上気させた愛らしい彼女をリヴァイは何度か見てきているが、こんな真っ昼間、しかも執務室では初めてで…。
半欠けの菓子を彼女の口の中にそっと押し入れ、紅も引いていないのに艶やかな唇を指でなぞった。
そして、彼女の目の前でこれ見よがしに舌先を出してその指を舐めるリヴァイの様に、ペトラは口の中の菓子を咀嚼する事さえ出来ずに、これ以上ないくらい耳先まで顔を赤くした。


「…今度はお前からだ」

意外と柔らかなその菓子をペトラが食べ終わるのを確認してから、リヴァイは机の上に紙を敷いて置いてある菓子を指差した。

「わ、私の番?」
「俺がさっきしたようにすりゃあいい。噛み千切れ」

手で半分に分けることをさっさと禁じられ、ペトラは観念して菓子を半分口にくわえた。
そして噛み切った半分を細い指で摘まむと、机に空いてる手を付き、リヴァイの口の前に持ってくる。

「兵長、どうぞ…」

ペトラは、リヴァイの口の中に、さっき彼がしたように、そっと菓子を押し入れると、やはり彼がしたように彼の唇を指でなぞり、赤くなりながらも小さく微笑むと、その指を舐めた。

「…悪くない」
「も、もう! 恥ずかしいです!」

指を舐めた時の艶はどこへやら、ぷいと横向く彼女に、この菓子を食べさせ合う意味をどう言おうかと、リヴァイは考えていた。

この菓子は、祝い事の折、幸せのお裾分けとして出されたりするが、この食べ方は、ある地方の結婚式の時に新郎と新婦がそうするものだと彼女は知らないだろう。
ひとつのものを分かち合うことで、これから共に歩む誓いとなるのだろうが、実際何かあれば、彼女が自らを投げ打って自分を助けようと守ろうとするのではないかと、リヴァイには分かっていた。
立場と責務さえ無ければ、リヴァイ自身も彼女の危機にはそうするだろうということも。

だが、想いを、心を、これから先を分かち合いたいと思ってこうしたのだと、リヴァイは今日、腹を括ったのだ。
順番としては色々間違えているのだろうが、行き着く先はどの道同じなのだから構わない…と、彼は思うのだが、ペトラはこんな雰囲気も指輪も無い、寧ろ騙し討ちと言ってもいいような彼の行動に呆れ、怒るかもしれない。

それでも一縷の望みを掛けて、リヴァイはペトラの左手をとり、その薬指に口付け、驚く彼女を真っ直ぐに見つめると、ゆっくりと言葉を紡いだ。
彼女の大きな瞳に、兵士長でも人類最強でもない、只の『リヴァイ』として映るようにと願いながら…。






6月1日の『プロポーズの日』にちなんだ話です。お菓子はトルコの伝統的なお菓子がモデルです。


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