under the rose

「いいんじゃない、コレ、趣があって。うん、イイカンジ」

『趣』という言葉自体、この人の口から出たのはいつだったかと、モブリットは己の記憶を辿った。
リヴァイ班が拠点としている古城の一角、石壁にもたれ掛かるように、黄色の小花の壁が上に横に広がっている。
たまたま通りがかったハンジ分隊長とモブリット副長の目にも見事な咲き振りと映ったが、ハンジはやがてニヤニヤと笑い出した。

「どうしたんです、いきなり」
「いやぁ、あの兵士長殿がコレを残しているのは何でかなぁと」
「リヴァイ兵長だって、何でもかんでも引っこ抜くわけじゃないでしょ?」
「何かあるよ、きっと、ね」

言うなり、ハンジは石壁と花の壁の間に潜り込んだ。

「ふむ。バラに似てるけどトゲはないし、香りもほんの僅か…」

始まった…と、モブリットは天を仰いだ。ハンジは疑問を感じたら検証しなければ気が済まない…例え仕事でも趣味でも。
本部には山積みの仕事が…とモブリットが思っていると、

「モブリット、私が見える?」

花の壁の隙間からハンジの声がややくぐもって聞こえた。
確かに顔は見えないが…

「脚は丸見えですよ」

苦笑混じりにモブリットが答えれば、やっぱりねぇとハンジも笑った。

「井戸や門とは逆方向、洗濯物を干すとかの生活圏もあっち、つまり、ここを人が通ることはまず無い」
「ここにいる人間も数が限られてますからね」

ハンジの検証に付き合うのも自分の隅々に染み付いてしまっていると心の中で苦笑しながら、モブリットはハンジの言葉を待った。

「つまり、あの兵士長殿はここで件の女性と逢い引きしている可能性もあるわけだよ」
「逢い引きって…」

一部の人間にはほぼ黙認状態のかのウワサを肯定するかのようなハンジの発言に眉をひそめながら、大声を出すのも憚られて、モブリットはハンジが未だ居座る花の壁の中に入っていった。

「雰囲気良いよね〜」

モブリットが入ってくると、ハンジもモブリットの方に寄ってきた。

「近すぎます、分隊長」
「だって狭いじゃない。…なるほど、そうやってこじつけたのか、あのムッツリチビ」

段々言葉が悪くなってきたとモブリットが感じ始めた時、さらにハンジの顔が近付いてきた。

「分隊長…」
「私たちも、さ…」

不意に、唐突に唇が塞がれて思考すら止まり、モブリットがハンジの頬に無意識に手を添えると、

「オイ、丸見えだぞ」

モブリットがハッと目を向けると、花の壁の大きな穴が有り、その先には腕組み仁王立ちの兵士長殿と、その部下の女性が立っていた。ペトラは真っ赤になって顔を逸らしていたが。

「あなたも気を付けた方がいいんじゃない? ここに二人で来たら怪しまれるって」

悪びれもせずにニッと唇の端を上げるハンジに、リヴァイの眉間の皺が深くなっていく。

「…言われるまでもない」
「ハイハイ、お邪魔さまでした〜」

ヒラヒラと手を振りながら立ち去るハンジの後を、モブリットはリヴァイに一礼すると急いで付いていった。

「ね、検証通りだったでしょ」

悪戯っぽく微笑む彼女を可愛らしいと思いながらも、モブリットはいつもの言葉を口に乗せた。

「生き急がないでください、分隊長」







バラはバラでもモッコウバラという種類です。
リヴァペト版『under the rose』の続きみたいな感じです。
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