芳香が献上された丹羅(ボツネタ)
2022/03/15 10:00

夢主=◯◯表記


朝が来た。

朝は嫌いだ。

日光が苦手な吸血鬼だからと言う理由もあるが、丹羅にとって、目を覚まさなければいけないのが最も辛い。叶うならずっと眠っていたい。

現実はクソ。

さあ今日も最悪な一日の幕開けだ。

――今日も俺は丹沙(弟)にいびられながらひたすら花壇の草を抜き、庭に遊びにやって来た訳わからん鳥にフンを落とされ、間違えて花を引っこ抜いて丹沙に親の敵のように怒鳴られるのか……。俺がゴミ以下の存在ゆえの仕打ちか……なんて不憫な俺……。

己を憐れみながらモゾモゾと身じろぐ。頭では起きなければと分かっていても体が完全に拒否している。ベッドに余計潜り込んで、二度寝を始めそうになったその時。

「丹羅さん、起きてますか?」

「!!っ……起きてます!!!」

ノックの後、扉越しに控えめに声をかけられ、そこでようやく丹羅は思い出した。

少しの間寝ぼけていたが、もう目はギンギンに覚めた。眠ってなどいられるか――よく考えたら俺はゴミ以下じゃなかったし、それどころかこの辺り(と言っても周りはほぼ自然)で一番幸せな男だった。何故なら――――。

「朝ごはん用意してあるので、いつでも一階に降りてきてください」

――超超超可愛い彼女が出来たのだから……!!

丹羅は服を着替えて身なりを整えると、台所に戻った彼女を追いかけるように一階に降りた。

「遅い。何をしていたんだ、間違いなく寝坊だ。規則正しい生活を心がけていたら目なんて日の出と共に自然と覚めるはずだぞ」

「げ、丹沙……もう起きてたのか」

「僕が起きていたら不都合でも?」

既に食卓に着席していた丹沙が広げていた新聞を畳みながら、朝一番に嫌味を言う。元々の三白眼の目つきの悪さもあって睨むと妙に迫力がある。まあ双子の丹羅も全く彼と同じ顔なのだが。

「◯◯さんが用意してくれている食事が冷めたら台無しだろう。本来なら彼女はお前に血液を提供するだけで、そこまでする必要はないんだからな。有り難い事だ、善意を無駄にするものじゃない」

「分かってる……」

――◯◯は俺の為だけに作ってくれているんだからな。ついでとは言えお前こそ感謝しろよ。……口に出せないので内心毒づく。

◯◯は俺のだからな。と優越感に浸る。

「まったく、何故こんなやつに◯◯さんが託されたのか理解に苦しむ」

「おはようございます、丹羅さん」

おずおずと◯◯が台所から現れる。丹沙と丹羅が話している時、いつも彼女は気まずそうだ。

制服の上からエプロンをつけるのはいつもの◯◯のスタイルだ。彼女からの希望で此処から近い人間の学校に通わせているが、正直丹羅は納得していない。少しでも離れたくないからだ。でもセーラー服姿はかなり可愛い。

「おはよう、◯◯ちゃん」

「今、珈琲を用意しますね」

二人のやり取りにいたたまれない気持ちになったのか、少しぎこちなくニコリと微笑む。

◯◯の淹れる珈琲はいつも丹羅好みの濃さに調整されている。 

こんな、可愛くて気遣いも出来て優しい女の子が彼女なんて本当に奇跡だ。

そう考えると、丹沙は憐れなやつだ。きっと幸せな丹羅を妬んでキツく当たってしまうのだろう。

「何をニヤニヤしてる、丹羅。気持ち悪い」

「いや、なんでもないー……」

××××


「あー……今日も疲れたぁー……丹沙のヤツ、人使い荒すぎ。◯◯ちゃん撫でて……」
  
「はい」

丹羅は二人っきりになった途端、妙に甘えてくる。

元々丹羅は繊細な性格だが丹沙があの調子なので甘える対象に出来ず、自然とそうなってしまったのだろう。

求められれば応えるのが◯◯の使命だ。

そして何よりも、丹羅を否定してはいけないと◯◯の本能が告げているのだ。

××××


小ネタのSS版を書きたかったのですが、飽きて数ヶ月放置していた中途半端なところで載せます。





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