***




「じゃあ今日中に迎えに来るまで待ってなさい」
『……分かりました』
「無駄な事はしないように」


バンッ、大きくドアの閉まる音がして私は広い部屋に残された。
真っ白で、全てが真っ白
目が醒めた時も此処で一人、寝ていた


『うっ……ああ゙っ』


頭が割れそうに痛い。
残響が聞こえる、煩い
頭の光景、小さな私が映る

痛い、止めて、叩かないで、壊さないで。

お願い。

そんな言葉ばかりが聞こえる。


もう分かっていた。
私は死にかけだったんだとかは。
この体の殆どが造り物で
空っぽの人形に中身を詰めて、造って、見えるように綺麗な服を着せて。
出来た後も丈夫な人形にするために人形の素材を安い綿から絹に変えて。

でも製作途中、こんな綺麗な人形を造って何の役に立つのと疑問に思った製作者は考えた。まだ磨いてもないただの人形に何が出来るの?と
そもそもこの人形はただの暇潰しで
どれだけ美しく見せるか試しただけだった。
かと言っても捨てるのは勿体無い、服が綻んだら崩してしまおう。
せめて中身だけは残しておこう。

磨いてない人形はすぐに壊れるでしょう
少しでも綻んだら醜いから初めから無くしてしまおう。


その人形が今の私だなんて
とても笑えない。

ニャーとシランが私の足に頬を擦り寄せる。
持ち上げて抱き締める


『君は…私より綺麗でいいなあ』


羨ましい、愛しい。
たとえ私は捨てられた猫にも敵わない。
私は捨てられて、拾われて、造られて、また捨てられて、戻ってこられない。

だけど捨てられた猫でもこうして君は愛してもらえる事を知った。グラン様やバーン様、ガゼル様が居る

そっと指先で唇をなぞる
これは私の元のモノ。
誰でもない私のモノ。
今でも思い出すと温かくなる。
甘く、優しく、私の感情が軋む

辛く、苦しく、私の感情が傷む

まだ、居たい。
消えたくない、無くなりたくない。


「会いたい……っ」


偽りでも良かった。
あの3人の役に立てば、笑ってもらえた、優しくしてもらえた。

人形は人形らしく、凍結した感情も持ち、望まれた行動をして尽くして従って
役に立つ、それだけでいい
しかし記憶を持った人形は時が終わる。永遠に治らない、消えない。

貴方が笑ってくれた表情を思い出す。


『ガゼル様……』


呟いた、すると終始のドアが開いた。


(わたしはまだいきている)



残存





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