2日目。
響希くんに出会ったのはきっと偶然だった。
「(わーっ!!ヤバい、アルバイト長引いちゃった……アルコルとの約束の時間がー!!)」
週に3日、アルコルと違って生きるために色々と必要な私は短期間アルバイトをしてた(続かなかったけど)。
で、それが長引いて落ち合う時間に間に合わなさそうで走ってるとこ。
「うわっ、あと5分しかないよー」
急げ急げととにかく焦って角を曲がろうとしたときに向こうから来た人に気づけなかった。
「えっ…」
「うわっ…」
どんっとぶつかってそのあと小さくカシャンという音がした。
「おわっ、大丈夫かヒビキ」
「…ったぁ……はっ、ごっごめんなさい!!!」
私が慌てて謝るとヒビキと呼ばれたその人は大丈夫、と笑った。
「そっちこそ、怪我はない??」
「私は大丈夫………きゃああ!!」
「?!どうしたっ?!」
私がいきなり悲鳴をあげたから、ヒビキくんとそのお友だちが驚いて声をあげる。
「お…音楽プレイヤーに…ひっひびが…」
私の手の中には多分ヒビキ君のものと思われる音楽プレイヤー。
画面の端の方にひびが入ってしまっていた。
「あー……大丈夫、ちゃんとつくし」
「いや、でも、弁償…あぁっ!!でも時間…っ」
アルコルと約束していた時間はもうとっくに越えていた。
…怒られ…はしないだろうけど、また呆れられる…(´д`;)
「本当ごめんなさい!!あの…よかったら連絡先を教えていただけませんか!!弁償させていただきたいのですが生憎時間が……」
「いいって。聴ければ問題ないから」
すると隣の子がぺしんっとヒビキくんを叩いて後ろ向ける。
それでこしょこしょ話を始めた。
「(ちょっ、ヒビキお前バカかっ?!あんなかわいい子のメアドがゲットできるチャンスに何やってんだよ!!)」
「(いや、だって…)」
うん、よく聞こえないや。
それよりも時間が…
「あの…」
「あぁ!!連絡先ねー。赤外線でいい??」
「ちょっとダイチ!!俺の携帯っ…!!」
ダイチと呼ばれたヒビキくんのお友だちが首尾よく赤外線でヒビキくんのアドレスを送ってくれた。
「ついでに俺のもいい??」
「え、あ、はい。ぜひ…」
お時間とらせてしまった埋め合わせをさせてください、と言えばダイチくんも嬉しそうにメアドを送ってくれる。
「本当にすみませんでした!!ではまたっ!!」
私は一度深々と頭を下げてまた走り出した。
後ろからまたねーというダイチくんの声が聞こえた気がした。
「アルコル!!!」
落ち合う予定のビルの階段を二段飛ばしでかけ上がって、屋上に出ればそこには私の特別な彼がやっぱりもういた。
「おそっ…遅くなって…ごめっ…」
「問題ないよ、私は待つのは嫌いじゃない」
そういってニッコリ笑う。
本当、アルコルって私に甘いと思う。
…自分で言うのもあれなんだけど。
ようやく息も整ってきた。
「来る途中人とぶつかっちゃって」
「そうかい、…ひかるらしいね」
「え、ちょっとナニソレー」
私がぷくぅと頬を膨らませると、アルコルは笑って気を付けるんだよと言った。
「それでね、相手の人とちょっとしたお知り合いになった」
先程教えてもらったアドレスを落ち着いてもう一度見てみる。
久世響希くん…志島大地くん。
あ、こっちのアドレスも知らせなきゃ。
「えーっと…先程は失礼しました、星名ひかると申します、と」
「…それはトモダチという概念に当てはまるのかい??」
アルコルが私の携帯を覗き込みながら言う。
「うーん…まだ知り合ったと言えるかどうかも危うい関係だからトモダチという定義には当てはまらないかも」
「そうかい…難しいね」
「そうだね」
アルコルは大和さんのことをトモダチと認識しているようだけど、まだそのへんがよくわからないらしい。
私もどうやってトモダチになるか聞かれても答えられないしね。
「えーっと、『先程は失礼しました、星名ひかると申します。今度埋め合わせをさせていただきたいので都合のいい日などありましたらご連絡ください』…変じゃない??」
「文章としては」
「ん、ならいいや」
送信。
「よし。アルコル、今日は何をしようか」
「…そうだね」
その時送ったメールの返信はすぐに来たけど、結局この約束が果たされることはなかった。
…悪夢の7日間が始まる。
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