「普段も青服なんだね」
「まぁ、勤務中だし」
「え…勤務中なの??職務放棄…」
「バレなきゃいいだろ」
「相変わらず不真面目君だねぇ、伏見くん」

私がそう言って笑うと、伏見くんが黙ってぐぐっと私の方へ体重をかけてきた。

「おっ…重い…つぶれる…」
「名前…」
「え??」
「めい、前は名前で呼んでたのになんでイマサラ」

…あー…やっぱり気になったかぁ。
私が俯き加減になると、私の後頭部に伏見くんがぶつかってぐぐぐーと押される。

「わ、ちょ、本当につぶれる…」
「答えろよ」
「…伏見くんには関係ないよ。これは私のけじめだから」
「…けじめ??」

これは私のけじめ。
仲間だった時のさるひこを今の伏見くんと分けるために。
伏見くんはお友達だけど…もう、仲間じゃない。

「私は仲間しか名前を呼ばない。だけど、伏見くんはお友達だから伏見くん」
「前までとは違うってことか」
「…そうだね、寂しいけど」

そう、寂しいんだよ。
自分の中でだけでいい。
けじめが欲しかった。
仲間と友達を分けるけじめが。

「で?今日はなんの呼びだし、伏見くん」
「…うちの室長がめいに興味を持った。お前に会いたがってる」
「…へぇ」
「俺が吠舞羅(あそこ)出てくときにも言ったけど、本当に俺と来る気ないわけ??」

思わず振り向いてしまった。
振り向かないようにしようと思ってたのに…。
背中のぬくもりが消えたのに気付いた伏見くんもこちらを向く。
思えば、伏見くんが出て行ってから一度も会ってない。
身長も伸びてるし、髪形も変わってる…。
…またかっこよくなってる。

「…髪伸びたな。大人っぽくなってる。…身長あんま変わってねーけど」

伏見くんも同じようなこと…ん??

「身長変わってるよ…!!2年前より伸びてるもん…!!」
「何p??」
「6ミリ」
「ミリかよ」

ふはっと伏見くんが笑う。
あ、笑顔は昔のままだ。

「めい、やっぱお前のそういうとこいいわ…」
「え、あ、それはどうもありがとう…」
「だからお前が欲しーんだよ、俺は」

伏見くんがイキナリ真顔になり、私の腕をつかむ。

「なんで美咲を選んだ??めい…」
「…選ぶ??」
「そうだろ。お前はあの時吠舞羅(あそこ)に残った。俺より美咲を選んだんだろ??」

…違う。
2年間そう思ってたの…??
2年間…そう思われてたの…??

「違う…私はみさきがいるから吠舞羅を選んだわけじゃない…」
「じゃあなんで…」
「私の王は今も前もみことだけ…だから」

伏見くんが吠舞羅に残ってみさきが出て行っちゃったとしても私は吠舞羅に残ってた。
そういったら、伏見くんは心底驚いたように目を見開いた。

「…お前は美咲が好きなんじゃないわけ??」
「好きだよ。みさきもさるひこも大好き。…もちろん、みこともいずももたたらもりきおも」

"さるひこ"
その言葉に少しだけ、伏見くんが反応した。

「でも、"私"を必要としてくれてるのは伏見くんとこの室長じゃなくてみことだった。…それだけだよ」

みことは"特殊なストレイン"じゃなくて、"雪月めい"を見てくれてる。

「私の居場所は私が決める。私が決めていたい。だから伏見くんには…さるひこにはついていけなかった」

今でも夢を見るの。
毎晩毎晩飽きもしないで、
2年前の夢を。
伏見くんをさるひこと呼んでた頃を夢見てる。

「お誘いありがとう。でも、私はどこまでも赤色だから。青色にはなれません。室長さんにもよろしくお伝えください」

そう言って頭を下げて、帰ろうとした時後ろから声がかかった。

「なぁ、めい」
「うん」
「俺にもまだチャンスはあるってことだよな」
「?」

…どういうことだろう。

「チャンスは作るものだと思う…」
「…お前それ絶対意味わかってないだろ」
「うん、わからない」

伏見くんは呆れたような顔をするといきなりこちらに端末を向けてきた。

"パシャッ"

「え、ちょ、今の絶対シャッター音だよね…!!写真やだ」
「気のせいだ」
「私耳はいいもん!!」
「耳だけ??」
「…最近視力はちょっと落ちてきたけども…」

…ってそうじゃなくて。
でも気付いた時には伏見くんはヒラヒラと手を振って人込みに消えていくとこだった。

「…またね」

そんなこと呟いても聞こえるはずないのに口からこぼれた。
するとポケットの端末が震える。
そこには伏見猿比古の文字。

「??」

メールを開くとたったの1行。

"またな、アホめい↓"

そしてさっき撮られた不意打ちの私のアホ顔。

「やっぱり撮ってる…!!」

でも滲み出るのは笑顔。
"またな"
その言葉が嬉しくて帰り道一人でにこにこしてたのはナイショナイショ。


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