タイムアウト@

入学早々いじめられている、か弱い女の子。
最初はそう思ってた。
なのに、


"これから卒業まで、定期テストで3位以内を取り続けます。
だから、授業に参加しなくても私に単位をください。"


100点だらけのテストを片手に職員室で啖呵を切ったその子には、
か弱いなんて印象は全くなくて、むしろ、意志の強いその目に俺は興味を持った。


"君はどうしてそんなに強い??"





そんないじめられっ子、木吉ゆりと初めて話をしたのは
木吉ゆりが学校と、単位についての話をつけて、授業に出なくなって間もなくだった。

「あの」
「ん?」

授業中だし、体調不良者かと思って振り向くと、
木吉ゆりが1人で立っていた。

「あ…えーっと…木吉さん?」
「はい。あの、タオル貸してもらえませんか」
「あぁ、タオルね。タオル……あ??」
「??」

思わずマヌケな声が出た。
なんでタオルなんか…と思って木吉ゆりを見ると、
全身ぬれ鼠状態で今もなお、水滴を垂らしながら立っていたから。
固まった俺の視線を追って下を見た木吉ゆりは『あ、』と小さく声を漏らした。

「すみません、後で拭きます」
「いや、それはいいんだけど…どうしたの??プールにでも落ちた??」
「おかでさまで。鞄までもれなくびしょびしょです」

なんでこんな時期にプール…とまで考えて一つ思い当った。

「もしかして、誰かに落とされた??」
「……"先生"には関係ないことですよ」

"先生"という言葉で突き放されて、学校との約束を思い出す。
あれにはイジメの隠蔽も含まれていたのだろう。
俺からタオルを受け取り、小さく『ありがとうございます』と頭を下げると、
部屋を出ていこうとするその子を思わずひきとめた。

「あ、あのさ!!」

木吉ゆりが驚いた顔で振り返る。
このまま、一人にしてはいけない気がした。

「"先生"じゃなくて、俺個人として聞かせて。三島雄大として。…それならいいでしょ??」
「…なぜ」
「木吉さんに興味があるから」

木吉ゆりは一瞬、本当に一瞬だけ嬉しそうにした口元を覆い隠すようにに手を口元に持って行った。

「…いいことないですよ、私と関わっても」
「元からいいことなんてそうそうないから大丈夫」

俺がそういうと、木吉ゆりはため息一つついて体の向きを俺に戻した。

「…朝、登校したらつかまってプールに連れていかれました。そのまま突き落とされたので思いっきり水をかけてやりました。以上」
「…かけたの??」
「えぇ。やられるばかりは癪じゃないですか。前にノートや教科書をめちゃくちゃにやられた時は、ある程度無事なのを除いて全部やった人の靴箱にリバースしてきましたし」
「ぶ…っ」

思わず俺が噴き出すと、木吉ゆりは少しむっとしたような顔をした。
慌てて取りつくろう。

「あー…いや、ごめん。思ってたよりも強いなぁと思って」
「別に強いわけじゃないです。やられっぱなしが嫌なだけで。…人が真剣に話してやってんのに…」
「だからごめんって。…お詫びにこの保健室と君の味方を提供するから」
「…は」
「木吉さん、教室に行かないんならいる場所ないでしょ。ここ、環境はすっごいいいからここを居場所にいてくれていい。
あと、俺のことも便利に使って。授業ノートのコピーくらいなら手に入れられるだろうし」

俺がそう言ってへらっと笑うと、木吉ゆりは困ったような渋い顔をした。

「…メリットは」
「はい??」
「"三島雄大"さんのメリットはなんですか」

"三島雄大さん"
そう呼んだ木吉ゆりに少しホッとする。
俺は"先生"として突っぱねられてはいないようだ。

「先生としては、授業にでてない問題のある子の居場所を絞れること……っていいたいところだけど、俺としてはただの興味」
「…え??」
「俺は君に興味を持った。君のその強さの理由を知りたい。だから、傍に置いておきたい。…どう??」

半分変態チックな言葉になった気がするけど、ほとんど俺の本音だから仕方がない。
まぁ、興味があるのは本当。
その強さの理由を知りたいのも本当。
ただ、だから傍に置いておきたいってのは建前みたいなもの。
この子にはだれか一人でも、まず味方がいなきゃいけないと思った。
木吉ゆりは俺が話している間、ずっと俺を見ていたけど、一つため息をついた。

「…木吉ゆり、知っての通り1年生。バスケットボール部のマネージャーをしています。どうぞゆりと呼んでください、"三島雄大"さん」
「あ、雄大でいいよ。あと、もっと素な感じで話してくれて構わないよ。先生と生徒は嫌でしょ??友達ってスタンスでよろしくどうぞ」

俺がそういうと、ゆりは一瞬ぽかんとした後に笑いだした。

「つくづく変な人。これだけ言っても私と関わろうとするなんて」
「うん、よくいわれる」

こうして笑っていれば普通の女の子だ。
そんなこと考えてたら『へぷちっ』と小さなクシャミが聞こえて思い出す。
あ、こいつプールに落っこちたんだった。

「お間、とりあえず頭拭け。ジャージは??あるの??」
「ある。さっき部室から取ってきたよ」
「よしよし。じゃあ鞄こっち。乾かすから。
お前はそっちカーテン引いて着替えて。はい、動く」
「はーい」

俺はゆりから鞄を受け取って中身を確認する。
あーぁ、駄目だなこりゃ。
教科書やノート類は全部終わってるわ。
すると、ゆりがカーテンの向こうで着替えながら言う。

「ねーねー」
「ん??」
「雄大って呼んでいいんでしょ??」
「あぁ、うん。あ、でも保健室以外の校内ではやめろよ??」
「それはわかってる。でね、」
「なんだよ」
「ゆうちゃん、でもいい??」

カーテンから頭だけだしてゆりが言う。
驚くべき速さの懐きよう。

「いいけど、お前さっきまでの無愛想どこ行ったわけ」
「あれは人避けだもん。興味本位で寄ってこられて巻き込まれても責任とれないし。
…ゆうちゃんくらいだよ、それでも私に興味あるなんて言ったの。…ちょっと変態っぽかったけど、私を傍に置いてくれるなんてね」
「ほっとけ」
「まぁ、後半は建前でしょ。優しいね、ゆうちゃん」

…こいつはどこまで頭がキレるのだろう。
末恐ろしいガキだな。
着替え終わったゆりがカーテンを開いて出てくる。
そして、こっちを向いて頭を下げる。

「でも、嬉しかったです。私のこと、助けてくれる人なんていなかったから。
…ありがとう。これからお世話になります」

そう言って笑ったゆりの顔を見て、俺の行動は間違ってなかったなと思った。

「こちらこそ、どうぞよしなに。とりあえず3年間は守ってやる」

さぁ、これから3年間…楽しくなりそうだな。




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