彼女の唇は真紫に変色していた。
寒いのだろう。
彼女に触れようとしたら、拒絶された。
そしたら、また意識が飛んだ。

こんな生活を始めて半年が過ぎた。
僕は半年前から彼女を僕の部屋に保護している。
外は危ない人や物だらけだから、彼女を部屋から一歩も出さないようにしてる。
それは、彼女を誰にも取られたくないという気持ちもあるのかもしれない。
彼女は半年前と比べてずいぶんとやせ細って、体のあちこちに青アザを作っていた。
ちゃんと食事も与えてる。なのに、なんでやせ細っちゃったんだろう?
大切に扱ってる。なのに、なんでケガなんかしてるんだろう?
でも、僕が彼女を愛してるという事実は変わらずにそこにあると信じていた。

冬になったからかな?彼女の血色の良かったはずの唇は、毒々しいまでの紫色になっていた。
僕の部屋はボロいアパートの一室。
窓を閉めても、わずかな窓のすき間から風が吹き込んでくるほどのボロさ。
一応、ストーブを焚いてるけど、それでも彼女は寒いのかもしれない。
寒いの?と尋ねてみたけど、彼女はうんともすんとも言わず、ひざを抱えて、ただうつむいてるだけだった。
彼女を暖めてあげようと手を伸ばす。すると、ぱちんという乾いた音がした。それと同時に、頬にひりりとした痛みが走る。その時、彼女の細くて白い手にはじかれたことに気がついた。
それに気付いた途端、視界も脳内も何もかもが急に真っ白になって、僕の意識はぷつんと軽い音を立ててはじき飛んだ。
最後に見たのは、怯えた光を灯した彼女の震える瞳だった。

最近、よく意識が飛ぶ。
意識が飛ぶと言っても、気を失ってるんじゃなくて、別の人格が出てきてるようなカンジ。その間の記憶は一切ない。
そして、意識を取り戻すと、決まって彼女はボロボロになって倒れている。
彼女を抱き起こすと、ほっとしたような、戸惑っているような、どっちつかずの薄い笑みを浮かべて、声には出さないけど「だいじょうぶ」と唇の動きだけで伝えた。
何故だか、僕は泣きたくなった。

ある時、気づいた。点と点が結びつくように、今までの感情やら出来事やらが全て繋がった。
彼女を傷つけてるのは、紛れもない自分だった。
意識が飛んでるんじゃなくて、理性が飛んでるんだ。
ひりひりと痛む拳と、彼女に染みついた僕の拳くらいの大きさのあざがその証拠だった。
時折、傷ついた彼女を抱き締めては泣いた。「ごめんね、ごめんね」と呪文のように呟き続けた。
僕はその時の彼女の表情と言葉を覚えていない。
ただ、いくら謝っても、いくら涙を流しても、彼女の傷が減ることはなかった。

ある朝起きると、彼女がいなかった。
誰かに連れ去られたんじゃないかと焦ったけど、部屋を荒らされた形跡も、暴れたような形跡も見当たらない。
部屋のあちこちを探っていると、小さなちゃぶ台の上に小さなメモ用紙がちょこんと置かれてるのを見つけた。
「ごめんなさい。もうあなたの元にはいられません。さようなら」とだけ書かれてあった。
その時、初めて部屋が真っ白なことに気がついた。
何も描かれてないキャンパスのような色。僕はその中のシミだということに、今さら気付かされた。
フッと、窓のすき間から風が入りこんでくる。その風は、冬なのに僅かな温もりを含んでいた。
視界がじんわりとにじんで、僕の瞳を映す世界は、ぼんやりとした像を形取っていた。

誰か、彼女を見つけたらそっと抱き締めてやって下さい。
その娘はいい子です。
どうか、どうか惜しみない愛を与えてあげて下さい。




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過去拍手ログ。
ポルノグラフィティの曲「ビタースイート」を基に創作。

thank! 自慰


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