「なんて顔してんだよ」
「…ん」
俺が不安げな表情でもしていたのか、目が合った千秋に頭を小突かれた。
小突かれた所を右手で摩る。
千秋なりの優しさなんだろうけど、なんともわかりにくい。
「…ごめん。じゃあ、俺たちそろそろ行くわ」
自分の携帯を両手で握り締めているポチに向かってそう言い放つ。
年下であろうポチに軽く会釈をしてから、先に歩き出している千秋の後を追った。
「あ、ありがとうございます!」
でかい声でお礼を言われる。
あいつは、周りの目とかを気にしないのだろうか。
チラリと振り向くと、笑顔で手を振っているポチの姿があった。
そんなポチに顔が綻びながら先を行く千秋を追い掛ける。
「千秋!待って」
一歩前を足早に歩く千秋の腕を掴んで引き止める。
「ちょ、歩くの早い」
「コンパスの差じゃねぇ?」
不敵に笑って俺の足と自分の足を見比べる千秋の背中をグーで殴ってやる。
小さく呻き声を漏らす千秋に、ざまあみろと感じる。
「なんか、機嫌悪い?」
遠慮がちにそう聞くと、キョトンとする千秋。
だけどすぐさまいつもの人を小馬鹿にしたような笑顔で、子供にするように頭を撫でてきた。
「悪くねぇって」
「…うん」
なんだかんだで俺を甘やかしてくれる千秋。
そんな優しさに甘えてしまう俺は、柔らかい笑みを浮かべた千秋に安心した。
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