「宏樹さん、早く歩かないと置いて行くよ」

数歩前を行く、男にしては中途半端な髪の長さをしたそいつ。
口調は明らかに強い筈なのに、その顔は楽しそうに笑顔が浮かんでいる。

そいつの名前は南裕介(みなみ ゆうすけ)。
俺より10歳以上も年下の南との出会いは最悪この上ないものだった。


「もう!映画始まっちゃうってば!」
「…はいはい」

あまりにも歩くのが遅かったのだろうか、俺の近くまで駆け寄ってきて人混みの中だというのに手を握ってくる。

「馬鹿、離せよ」
「嫌」
「ふざけんな」

男同士、しかも、こんな人がたくさんいる中で手を繋いでいるなんて堪ったもんじゃない。
きつく握られた手を振り解こうとするけど、南が思った以上に力が強いせいか無駄に体力を消耗するだけだった。


そもそも、十以上も離れた南となんで一緒にいるのかというと、実は付き合っているからだったりする。

…出会いは本当に最悪だった。俺の家と隣の家を間違えて来ただけの南に、何故かそのまま強姦されてしまった。
そのことをグチグチ言うと、南は和姦だったと怒ってくるけど。

そんな最低野郎に流されて今に至るという訳だ。


「宏樹さーん…なんか乗り気じゃないね?映画やめよっか」
「え?南、映画観たいっつってたじゃん」
「んー、別に」

そう言うと、今まで向かっていた方とは逆の方向へと歩き出してしまう。

最近になって気付いたことだけど、南はかなりの気分屋だ。
怒ってたかと思えば急に笑い出したり、泣きそうになってるかと思えば怒り出したり…。

「宏樹さん!」
「え、あ?なに?」

前を歩く南の背中を見つめていたら、またしても急に声を掛けられた。
いきなりのことで驚きつつも、段々南の唐突な行動に慣れてくる。





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