頑張れ御幸君2

とはいえ、女子に囲まれている御幸君に声をかけるだけでもなんだか躊躇われる。楽しそうにお話してるし…。

でも可愛い栄純のため、と気合いを入れて声をかける。


「御幸君、」


すると、御幸君より先に御幸君に群がる女の子に


「何?」


なんて睨まれてしまった。やっぱり私、女子からは嫌われてるのかもしれない。


「用がないなら帰れよ。」


なんて軽くだけど肩を押されて体がよろける。怖い…。明日美ちゃんいなくなったら生きていける気がしない。なんて思っていたら、やめろ、と声がして、見れば御幸君が私の肩を押した女の子を睨んでいた。


そのまま私に視線を移し、なに?と聞いてくる御幸君。


「え、栄純が呼んでる…。」


私がそう言うと、栄純?と御幸君は顔をしかめ、扉の方を見る。そこにいる栄純を見て、御幸君はあぁ、と席を立った。


栄純のもとへ歩いていく御幸君の後に続いて歩く。明日美ちゃんになぐさめてもらおう。女の子怖いよ。なんて思っていたら扉まで来ていて、下を向いて歩いていた私は、いきなり立ち止まった御幸君の背中にぶつかった。


「青山先輩、大丈夫ですか?」


栄純が心配そうに聞いてくる。


「大丈夫だよ。前は呼び出された事もあるし。」


私がそう笑うと栄純は驚いたようだった。


でもありがとう、栄純、と笑うと、御幸君はいきなり私の手首を握った。


「沢村、悪ィけどお前の話今度な。」


御幸君はそう言うと、ちょっと、という私を無視して、そのまま引っ張って屋上までやってきた。


もう昼休みも終わりなので、屋上には誰もいない。御幸君は屋上に着くと、私の腕を離して私の方を向いた。


「あのさ、栄純って?何で沢村のこと名前で呼んでんの?」


御幸君は頭をかきながらそう聞いてくる。


それは、一週間くらい前のこと。明日美ちゃんが春の練習姿見たい!と言ったので、私達はまた部室の裏から野球部の練習風景を覗いていた。

すると、小湊君と栄純が一緒に歩いてきて、挨拶してきた。四人でしばらく話していると、明日美ちゃんが、栄純て名前変わってるよね、と言い出して、それから皆で栄純と呼ぶようになった。


と御幸君に伝えると、御幸君は驚いた顔をして、それだけ?なんて言った。


「それだけだよ。」


そう言うと、御幸君は顔を赤くして口元を手で覆って顔を背けた。


「御幸君、今日なんか変だよ?」


私がそう言うと、御幸君は顔はそのまま、視線だけをこちらに向けた。その視線は、なんだか拗ねているようで。


私のせい?と聞いても、御幸君は黙ったままで、怒ったような顔をして目を合わせてくれない。


「御幸君、」


「それ!」


私が呼び掛けると、御幸は大きな声でそう言った。御幸君は私の方を向いて、不機嫌な顔をした。


御幸君が何を言っているのかわからず、不思議そうにする私に、御幸君はしびれを切らしたように


「何で沢村は栄純で、俺は御幸君なワケ?」


と言った。

「だいたい、倉持と同じように接して欲しいって言ったのに全然してくんねぇし、小湊が栄純って呼び出すから美加ちゃんも栄純って呼ぶなら俺の事だって御幸でいいじゃん!俺は距離縮めたくて名前で呼んじゃったりしてんのに…。」


御幸君はそれだけ言うと、しばらく満足そうにしていたけど、私の視線に気づきどんどん顔を赤くした。


「ご、ごめん。じゃあこれから御幸って呼んだらいい?」


私がそう言うと、御幸君は


「それでよし。」


と笑って、私の頭をぽんぽん、となでた。


あぁ、こんなところ女の子に見られたら、今度こそ私殺されるなぁなんて思いながらも、御幸君の大きくて硬い掌に頭を撫でてもらった事のある子なんていないだろうな、とちょっとだけ優越感を感じた。


「み、御幸」
「なぁに?」
「私の事、ちゃんって付けなくてもいいから。」
「…了解。」


手をほんの少し伸ばせば触れられる距離で、そう優しく笑った御幸の顔はやっぱりイケメンで。



御幸を独り占めできる女の子は幸せ者だな、と思った。








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