>> ふたりおままごと

コツコツとコンクリートの階段にローファーの音が響く。一人の部屋に、私は帰る。別に寂しくなんかない。そうだな、今夜はカレーでも作ろうかな。いつもの通りに冷たいドアを開けた。


「おかえりなさい、杏。」

「・・・なにしてんの。」

玄関に立っていたのはアレン。突っ込む所はたくさんある。まず、ここが私の家であること。そしてアレンの格好が変であること。フリフリのエプロン、三角巾、そしてなぜかオタマの装備。彼はとびきりの笑顔でこう答えた。

「新妻ごっこです。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「誰が新妻?」

「僕です。」


ダメだ。いろいろ間違ってる。ていうか不法侵入だろうよ。アレンはそんなことも気にせずにどうぞどうぞと中に招き入れる。いやだからここ私の家。


「どうします?」

「何を?」

「ご飯にしますか?お風呂にしますか?

それとも・・・」


温かい手が私の頬に触れた。紡がれた言葉の先を想像して脈拍が速くなる。

「それとも・・・?」

アレンの瞳が妖しく光った。


「僕・・・・・


とポーカーでもしますか?」

「ご飯にする。」

なんか変な想像した私が恥ずかしい。体中に熱が回っていく感覚が嫌というほど伝わってくる。目線を逸らさずにはいられない。それを見たアレンはおもしろそうに顔をのぞき込んでくる。

「顔赤いですよ?」

「見ないで!」

「もしかして期待させちゃいました?」

「っ!してない!」

「顔赤いですよ?」

「も、分かったってば!」

ぐいっとアレンの肩を押して顔を遠ざける。顔近すぎなんだもん!するとアレンが何も言わなくなってしまってリビングが急に静かになった。・・・あれ?怒らせちゃったかな。なんか不安になってきた。ちらっと横目で見ると満面の笑みで私を見つめるアレンがいるわけで。

「・・・・・なに。」

「いやあ、可愛いなあと思って。」

「っ!〜〜〜!」

「そう、そういうのね。自覚してね。」

「む・・・。」


思いっきり顔をしかめる。精一杯の不機嫌アピールです。そしてアレンに背を向ける。精一杯の口ききたくないアピール。でも本当は、可愛いって言われた精一杯の照れ隠し。

「杏ちゃん。」

後ろからぎゅうっと抱き締められる。アレンの体温、匂い、声、いつもと違う呼び方に胸がきゅーっとする。


彼は知ってる。一人で食べるご飯の寂しさも、私が一人暮らしを本当は寂しいと思っていることも、私がアレンを大好きなことも、ぜーんぶ知ってる。

私は知ってる。彼が私を心配してこうしてご飯を作りに来てくれることも、そんなこと自分からは絶対に言わないことも、アレンが私を実は大好きなことも。ぜーんぶ、知ってる。


私はずっと一人おままごとをしてきたんだよ。


「なんか帰りたくなくなってきた。」

「いいよ、泊まってけば。」

「いやなんかもう、住みたい。」

「はは、どんだけ・・・」

「―あ、いいこと考えた。」

「なあに?」

「僕たち結婚すればよくない?」

「・・・・・。」

「あれ、杏ちゃーん?」

「う゛ぅ・・・」

「え!?泣くの!?」


そんなに嫌?ごめん!そう言いながら私の正面に回って狼狽する。やばい、これってプロポーズじゃん。本当に泣けるんだ。嬉し泣きなんだか安堵泣きなんだかよく分からなくて、恥ずかしくて、気持ちはぐっちゃぐちゃだけど、


「アレン、大好きぃぃ。」

「僕も杏が大好きです。」


アレンの背中に回した手と、笑いながら私の頭を撫でてあやす手がすごく幸せだった。




ふたりおままごと

その時は旦那様でよろしく。


――――――

遅くなってすいません!
全然ごっこじゃない。

マナさんに贈ります!
お題:ごっこ遊び



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