02





 キッタくんの部屋にはキッタくんしかいない。てっきり両親と一緒なのかと思っていたけど……。それにしても電気くらいつけてくれてもいいのに、カーテンも締め切ったままだった。
 キッタくんは自分だけさっさとベッドに腰掛けてしまった。
「電気つけようか?」って訊いても無視。
 暗い中、かろうじて透明のビニールから出されていない制服がかけてあるのが見えた。それが本当にうちの男子制服だと確認できて、ちょっと安心した。ちゃんと同じ学校の人だ、って。

 部屋にソファはない。というか家具自体が少ない。ことさら奥の方の窓際の椅子まで移動するのもちょっと嫌で、オレはドアに近い入り口に立っていた。
 プリントを渡したりしても、キッタくんは無口なのか全然しゃべらない。
 その時ぼくは違和感を感じたんだ。そこに座っているキッタくんは、この世界の人間じゃないような、うまく言えないな、ここにいてはいけないものがいるような……とにかく得体の知れなさを感じた。
 キッタくんは顔だけオレの方に向けていても、目以外のところが隠れているから、なにを考えているのか全然読めない。
 部屋は暗いままだし。
 オレもう居づらくて居づらくて。
 帰ろうって思っていたところで、ちょうど都合よく携帯電話が鳴ったから、それを口実に退散したんだ。
 その日はそれっきりなにもなかったよ。その日はね。



 それでその翌日、つまり今日だ。

 今朝は遅刻ギリギリだった。オレが教室に入ってすぐ、先生が入ってきて皆がばらばらと席に戻り始めたんだから、ギリギリセーフだ。
 オレの席は真ん中の列の、後ろから二番目。
 出席の間にそれとなく辺りを見回したけど、昨日の放課後に見たキッタくんの姿は見えない。昨日まだ寝込んでいたんだから、きっと今日も休みだろう。そう思った。

 それで授業が始まってからオレはあることに気づいた。
 オレを含めて四十人、空席が一つもないことに。

 なにかが変だ。
 このクラスは元々三十九人……だったはずなんだ。その三十九人のクラスに転校生が一人来たのだから、この教室には四十席の机がなくてはいけない。なるほど机は四十脚ある。そしてその転校生は今日欠席している。
 なら今どうして四十の机が、全て、埋まっているんだ?
 いや、昨日まででもいい。空いていた机があった日なんてあったか?
 気になって小声で後ろの席の奴に聞いてみた。
 すると……


「何言ってるの。転校生なんていないよ?」


 ……なんてことを言うんだ。信じられない。驚くオレにそいつは続けて言った。
「だってこのクラスは最初から四十人だろう?」
 その声は明らかに『お前はなんてことを聞くんだ?』って驚いていた。


 だから授業が終わってオレはすぐ名簿を確認した。
 カ行の欄を見るとまず加藤で、次は栗山。キッタという苗字はいない。
 急いで先頭の阿田から、一番下の吉田まで確認した。
 最後は四十番で終わっていた。
 それでやっぱりキッタという名前の生徒はいないんだよ。

 オレにはもうなにが起きているのかわからなかった。
 信じていたものが一気に崩れる感じっていうのか、一気に色々起こってなにも考えられなくなった。それで、冷や汗やらなんやらで血の気の引いた酷い顔だったんだろうな。
 教壇で名簿持って固まってたオレを二時間目の先生が早退させてくれたんだ。


 昨日オレが見たキッタくんとは誰だったのか。
 そして転校生がいないならなぜ三十九人だった生徒が四十人になっているのか。
 だいたい、それならなんで「転校生にプリントを届けろ」なんて代役が回ってくるのか。
 わけわかんなくなっちゃってさ。




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