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歓楽天地の夢

(2014/11/07)

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負 
お題:「歓喜よ、永久たれ」


あるとき、私は夢を見た。


(路地の先に奇怪な出で立ちの女が立っていた。)
(夜だからおかしく見えているだけだと思った。だが近づけばますます奇怪だ。頭からオレンジジュースでもをかぶったのだろうか。膨らんだスカートの裾から、滴が糸を引いている。)
(それが吐き気がするような甘さで言った。)

「おかしにする? それともいたずらする?」

(女の胸元にオレンジ色の火がついた。何てことはない。)
(カボチャのランタンだ。それなら私も似たようなものを持っている。女はにんまりと笑って私の手を引いた。手袋の手がべたべたとしていて不快だ。私は手を払った。)
(女は構わず路地の先へ走った。紫色の扉を開ける。)
(私は勧められるがままに中へ入った。)

(室内は化け物が渦巻いていた。まあそうだろうなと思う。)
(手に手にグラスや酒瓶を携えている。談笑している者もあれば踊っている者もある。丸太を抱いて眠っている者もある。いずれにしろ、さしたる興味は引かれない。)

(私は彼らと同じ燕尾服を着ている。黒い、黴が生えそうな燕尾服だ。だから問題はない。問題は私の手荷物だ。生首はドレスコードに触れないだろうか。そんな考えが頭をよぎった。しかし誰も止める者はなかった。ならばそれでいい。)
(そうしてしばらく歓声に身をゆだねた。)

(やけに息苦しいと思ったら、妙に天井が低い。天井には宗教画が描かれていた。地獄のつもりらしい。まだ絵具の匂いが鼻を突くような気がした。悪魔の指から緑色の滴が落ちた。その先には砂時計に似た、透明のガラス細工が置かれてあった。砂に代わって、緑色の滴で満たされている。あれでは返しても返しても意味がないのだろうな、と思う。)

(鳥の足が踊りよろめく。黒い烏。面か素顔かはわからない。)
(よろめき転びつつ私に酒の入った瓶を握らせる。)
「時計の針が十二時を指せば魔法は解ける」
(烏の嘴はそう言って息絶えた。床に倒れ、往く人往く化け物に足蹴にされている。)

(ちゃぷん、と酒瓶の中の液体が声を立てる。)

(よくわからないが使命を賜ってしまったらしい。)
(私は烏から渡された酒瓶を一気に呷った。)
(夜を濾過した青い水が身体に注ぎ込まれるのがわかる。あえなくこぼれ落ちた液体は喉を伝って燕尾服を青く濡らした。)
(最後の一滴を床に落とす。中身がないことを確認する。それから瓶の首を握る。今なら火でも吐けそうだ。それこそ火蜥蜴のように。気分は悪くない。足取りは、いくら人の背にぶつかろうが、転ばなければそれでいい。)

(フラガナトゥーラを片手で持ち直す。一瞬目が合った彼は私を諫めるような視線を呉れたが何も言わなかった。それを良いことに私は砂時計を叩き割った。ガラスが割れる断末魔。緑色の液体が辺りにはじける。)
(全員の視線を浴びた。)
(こういうときにはお辞儀でもするべきか。迷ったところで)


そこで、目が覚めた。



追記

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