メモ記



「白壁」と今後のこと



「白壁」はほろびる時刻の「おごれる魚」とリンクする形になっています。
二つは姉妹作のようなものです。

若くして天才肌の美術屋として評価される「僕」
本編一人称で語るところの「私」は「僕」の内面に住まうもう一人の自己。
多重人格では本来の自己は奥に引っ込んでいることが多いと聞きますから、表に出ている「僕」の方こそペルソナで、「私」こそが本来の自己……なのでしょうかね。本人たちもすでにそのあたりの区別が付いていないようです。二重人格だとかイマジナリーフレンドだとか、彼らにとってそんな名称はどうでもいいんです。

海難事故で先天的な色彩感覚を失ったことが今回の事の発端です。
作品を描くことで自己を保っていた「僕」は、混乱の末になかば自殺するような形でその息を止めてしまう。
そこですべて捨てて眠ってしまえばいいものの、なまじ才能への執着を切り離せないから、「僕」はいつまでも絵の具の海にまみれて苦しみ続けなくてはならない。
「私」は「僕」の苦しみを感じ、こちらもまた執着を断ち切れない。
沈んだ「僕」を取り戻すため夢に身を投じる「私」の話が、今回の「白壁」です。

銃や弾丸はアンプルの形状から連想されたイメージ。
「私」は潜るたび最初からやりなおしているので、第五夜あたりの「私」は1〜4までの道筋を通ってあそこまで至っています。常に服はびしょぬれです(笑)


本来は最後の「00+」は「06」の予定で、「白壁[6/6]」の表記になる予定でした。最後も幸せに終わったようで「そこで、目が覚めた。」で終わる。
でもそれでは、普段きてくださる方への感謝と銘打ちながら後味悪すぎるなと(…)
彼らは元の位置に戻っただけで、共依存の関係を抜けられていません。だから本当は、何一つ解決しておらず、二人だけで完結してしまった「救いようのない彼ら」のお話です。

……というのが提出した原稿(ウェブ掲載版は二年前に別所掲載されたものを前身にセルフ手直ししています)だったのですが、
今回はなんだか「僕」も「私」も“描くこと”に対し前向きに向き合っているようです。
「画材を返してください」から後の流れは前身にはありませんでしたから、彼がそんなことを言えるようになったこと、私自身も少し意外です。
もしかしたら彼らはこの後、意外に大成するのかもしれませんね。


追記の追記:
どこにも書き忘れていました。
「彼らが好きだった本」はモーリス・メーテルリンクの『青い鳥』であることをここに記しておきます。


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