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Sugar50/50・chocolate -シュガー50/50・チョコレート- 


俺の名前は緒方 大一(おがた ひろかず)、菓子マーケティング部の期待の星などと言われているが、そんなものには興味はない。

先日、同期の藍屋が今企画中の菓子について「糖分を減らせ」と言ってきた。
このチョコレートの企画が出た段階で味については必要以上に拘って来た事で、それだけに俺も藍屋も納得いく物を作ろうとお互いに意見を譲らなかったのだが、話し合ってる場合ではなくなってしまった。

瀬戸さんからタイムリミット宣言を受けてしまった。
あの人は普段へらへらしてるくせに、やるといったら本当にやる恐ろしい人だ。
それも容赦がないから余計に。

だから、俺は藍屋の意見に合わせる事にした。

明らかに時間の無駄だしタイムリミットが迫ってる今、これ以上押し問答をしていても意味がない。

少しでも良い商品を…と考えていたからこそ粘ってはいたが、ここまできて藍屋は意見を押し通すばかりだった。
だから譲ったんだ。

なのに…何故かアイツは腑に落ちない顔をしていた。

一体何故?

自分の意見が通ったのに、何故あんな顔をしたんだ。
理解できない…。だが、もっと理解できないのは、その顔が頭から離れない俺の気持ちだった…。




「瑠璃川、藍屋に甘くするなと言われてるんじゃないのか?」

「そうだけど、チョコレートは甘い物でしょ?それとも何、これってダイエット製品な訳?」

開発部。ここでは主に菓子の商品開発を行っている。
甘い物を食べ、試行錯誤させている訳だ。
瑠璃川(るりかわ)は今回の製品に携わっているのだが、どうも俺はこの男が苦手だ。

「あのさー、今からカロリーや糖度を下げるのは難しいよ。こっちも納得いくものしか出せないんだから」

「俺もその意見には賛成だが、藍屋が…」

「藍屋ねぇ…」

何か言いたげな顔をした後、瑠璃川は小さな息を吐いた。

「藍屋の事、そんなに庇うなら普段から仲良くすればいいのに」

「別に庇ってなんかいない。俺は決められた仕事をしてるだけだ」

「あっそ。その割に、煙草の本数減ってるでしょ?いいねぇ、ボク煙草嫌いだし」

「お前の嗅覚はどうなってるんだ…」

瑠璃川の言う通り、確かに煙草の本数は減っている。
しかしそれは喫煙室に行く暇もなく働いているからで、瑠璃川がニヤついた顔でいうような事ではない。

「まあ、こっちもやってみるけどさ…あんま気乗りしないんだよなぁ…」

チラリ、と見られて直ぐに何か見返りを求めてる事を察する。
瑠璃川という男はこういう奴だ。

「分かった、何が希望だ」

「いいの?悪いねぇ〜、じゃあ…誰か紹介してほしいな!良い匂いのする子」

「匂いなど知らんが、女か…。分かった考えておく」

「ちょい、ちょい!女の子でも男の子でも良いけど、条件は良い匂いの子だから!」

「それは、どうやって探せばいいんだ…いちいち嗅いで回れと?」

「いるじゃん、こう…ふわっとしてるっていうか…ああ、いい匂い…って子」

「お前の性癖にいちいち付き合ってられん」

うっとりしたように言う瑠璃川に、呆れた顔を向ける。

瑠璃川は所謂匂いフェチというやつで、日々「良い匂い」というやつを探している。
嗅覚が働く分、平気で人に「クサイ」と言ったり、さっきみたいに煙草の本数を減らした事まで気付けてしまう。
まあ、自分に無いものだから凄いとは思うが、俺を巻き込まないでほしい。

「あ…!緒方先輩、ここに居たんですね!」

その時、ぱたぱたと幾分息を切らせた朝日が駆け寄ってきた。

「はぁ…藍屋先輩が探してましたよ」

「分かった、すぐに――」

行く…と言い終わる前に突然、瑠璃川が俺を押しのけ朝日を食い入るように見始めた。

「なっ、なんですか…?」

がしっと朝日の手を握り目をキラキラさせた瑠璃川に、朝日は訳が分からないといった顔をしている。

「君、どこの子?この企画に携わってるの?」

「え…?あ、はい。一応、緒方先輩と藍屋先輩と仕事をさせてもらってます(監視役で)」

「そうかぁ〜、うんうん」

瑠璃川はくるりと振り返り、今度は無駄に真面目な顔で俺を見た。

「この仕事…オレに任せてよ!」

「……」

親指を立てて微笑む瑠璃川に、俺は表情一つ変えず「分かった」とだけ言った。
奴の考えてる事は良く分からん。

「朝日、いくぞ」

「あ、はい!では、失礼します」

ぺこりと頭を下げる朝日に瑠璃川は「またね!」と終始ニヤけた顔を向けていた。

(良く分からんが、手間が省けたのか?)

まあ、そんな事はどうでもいい。
俺は急いで藍屋の元へ向かった。




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